はじめに
運動が苦手な子どもたちは、日常生活や学校生活で困難を感じることがあります。
その背景には「発達性協調運動症(DCD)」と呼ばれる発達障害が関与している場合があります。
本記事では、DCDについての基礎知識や特徴、そして具体的な支援方法をご紹介します。
子どもたちの生活をより良いものにするためのヒントを見つけてみましょう。
1. 発達性協調運動症(DCD)とは?
DCDの概要
発達性協調運動症(DCD)は、運動の不器用さを特徴とする発達障害です。
DCDは経験不足や本人の努力不足が原因ではありません。
- 5~11歳の5~6%が該当し、男児に多く見られる傾向があります。
男女比(2:1~7:1)
有病率が5%で計算すると、35人クラスで、1~2人が該当する。 - 自閉スペクトラム症(ASD)の80%、ADHDの50%以上にDCDが併発。
これらの背景から、運動の不器用さは発達障害全般に共通する特性と考えられる。
DCDの主な特徴
- 粗大運動の課題
- 全身を使った動きが苦手
(例:着替え、ダンス、縄跳び、ボール遊び)。 - 姿勢の維持が難しい、よく物にぶつかる。
- 全身を使った動きが苦手
- 微細運動の課題
- 指先の繊細な動作が苦手
(例:箸の使用、ボタンの留め外し、はさみ、紐靴、字がはみ出す、発音が不明瞭、リコーダー)。
- 指先の繊細な動作が苦手
2. 運動が苦手な子どもへの影響
1. 心理社会的な影響
運動がうまくできない経験が積み重なると、自尊心の低下や孤立感を生むことがあります。
これは子どもの心理的な発達に大きな影響を与える可能性があります。
2. 学習への影響
DCDのある子どもたちは、読み書きや計算などの学習面でも遅れが見られることがあり、学習障害を併発するケースも少なくありません。
DCDのある子どもの54.4%の子どもに読み書きあるいは計算の学習の遅れが見られたという研究報告があります。
3. 子どもを支えるための具体的なポイント
1. 日常生活を通じた支援
子どもの生活全般に目を向け、環境調整や成功体験を提供する。
2. 粗大運動への支援
● バランス感覚を養う:
姿勢を安定させる練習を取り入れましょう。
(バランスボール、クッションなど)の活用
● 簡単なステップから始めるダンスや体操:
● ボール遊びの工夫:
柔らかいボールを使用し、短い距離から練習を開始。
成功体験を増やすことが重要です。
3. 微細運動への支援
- 道具の工夫:
太めの鉛筆やグリップを活用して書きやすくする。 - 遊びの中での練習(楽しみながら取り組む):
ボタンや靴紐の練習は遊びの一環で取り入れる。
工作は簡単なものから始めて達成感を重視。
4. 心理的支援
- 小さな成功体験を褒める:
子どもが達成感を味わえるような声かけを心がけましょう。 - 社会性を育む活動:
家族や友達と協力して取り組む遊びを増やすことで、社会性を伸ばす。
5. 専門的なサポートの活用
作業療法士や理学療法士の指導
専門家によるアプローチは、子どもの運動能力向上に効果的です。
家庭での支援と並行して取り入れることをおすすめします。
学校や療育機関との連携
学校の先生や療育スタッフと情報を共有し、学習や運動に配慮した支援を得る。
5. 家庭で実践できる簡単な工夫
遊びを通じた支援
- 公園で遊具を使った練習:
滑り台を活用してバランス感覚を養うなど。 - 風船遊び:
キャッチボールよりも反射神経を鍛えやすく、失敗のストレスが少ない。
日常生活での支援
- 着替えの時間をゆっくり取り、ストレスを減らす。
- 食事の際にトングを使うことで指先の器用さを育てる。
メンタルケア
- 失敗を責めず、「もう一回やってみよう」と前向きな声掛けを行う。
6. 運動の不器用さがある子どもへのアプローチ
子どもに寄り添った「アセスメントから目標設定、アプローチ→振り返りと見直し」までを丁寧に行うことで、子どもの生活の質を向上させ、前向きな成長をサポートすることができます。
① アセスメント(理解・評価)
発達性協調運動症のアセスメント方法と理解のステップ
発達性協調運動症(DCD)の支援を行うためには、運動の不器用さや生活上の困りごとを正確に理解することが重要です。
以下の手順に基づいてアセスメントを進めます。
1. アセスメントの目的
「なぜうまくできないのか」「どのような困りごとがあるのか」を明らかにする。
- 困難の要因を「個人」「環境(物的・人的)」「課題」の観点から分析する。
- 生活にどのような影響を及ぼしているのかを具体的に把握する。
2. アセスメントの手法
- 観察
- 日常生活や学校での様子を観察し、困難な場面を確認。
- 聞き取り
- 本人、保護者、教師から具体的な情報を聞き取る。
- 「いつ」「どこで」「誰が」「何に」困っているかを明確にする。
- 検査
- 感覚特性や認知機能、知的能力を含む包括的な評価を行う。
3. アセスメントの視点
- 子どもの視点
- 「この運動が苦手で困っている」「これができなくて悔しい」といった自己認識を大切にする。
- 興味や関心、できるようになりたいスキルを把握。
- 生活の視点
- 具体的な困りごとを特定する。例:
- 朝の登園前:着替えに時間がかかる
- 授業中:姿勢を保てない
- 得意なことと苦手なことを明確にする。
- 具体的な困りごとを特定する。例:
- 環境の視点
- 家庭や学校で、苦手を補う環境が整備されているかを確認する。
4. 運動の困難を特性として理解する
- 否定するのではなく、運動が苦手なことを特性として認識することが重要。
- 子どもの気持ちに寄り添い、できることを伸ばしつつ、無理のない支援を心掛ける。
5. 具体例
- 縄跳びが跳べない原因
- 跳ぶタイミングがつかめない
- 手足の協調が難しい
- 姿勢保持が困難
- 字が枠からはみ出す原因
- 指先の力加減が難しい
- 道具(鉛筆など)が合わない
- 集中力を維持するのが難しい
② 目標設定
子どもの目標設定:意味のある目標を目指して
目標設定は、子どもが「できること」を増やすだけでなく、その結果「生活がよりよくなる」ことを目指しましょう。
短期目標で達成感を得ながら、長期目標に向けて楽しく前進することが大切です。
また、子どもや家族と一緒に目標を決めることで、みんなが一丸となってサポートできる環境を作りましょう。
子どもの成長を支援するためには、単にスキルを身につけるだけでなく、生活の質が向上することを目標とすることが大切です。
以下は目標設定の方法とポイントです。
1. 目標設定の基本方針
目的:子どもにとって「意味のある」目標を設定すること。
- 「〇〇ができるようになる」だけでなく、生活や遊びがより楽しく、スムーズになることを目指す。
例:
- 縄跳びができる → 遊びの時間を友だちと楽しめるようになる
- 着替えをスムーズにする → 朝の準備をストレスなく進められるようになる
2. 具体的な目標設定
- 短期目標
- 小さな達成を積み重ねることで、子どもの自信を育む。
- 例: ボールを10回キャッチできる練習をする。
- 長期目標
- 子どもの生活全体が良くなることを意識したゴールを設定する。
- 例: 公園でボール遊びを楽しむ時間が増える。
3. 目標設定のポイント
- 子どもと一緒に決める
- 子どもの意思や興味を反映し、主体的に取り組める目標を立てる。
- 子どもが「やってみたい」と思えることを見つけることが重要。
- 家族の気持ちを取り入れる
- 家族が目標達成に向けて協力できる環境を整える。
- 保護者の励ましや協力が、子どものモチベーションを支える。
③ アプローチ(実行)
子どもの困りごとへのアプローチ方法
子どもが楽しみながら成長できる環境を整え、できる範囲から無理なくステップアップしていきましょう。
日々の小さな達成が、子どもに自信と笑顔をもたらします。
子どもの成長をサポートするためには、楽しさを重視しながら日常生活に工夫を取り入れることが大切です。
ここでは、生活の困りごとを軽減するための具体的なアプローチとポイントを紹介します。
1. アプローチの基本方針
目的:生活の困りごとを軽減し、子どもの成長をサポートすること。
- 子どもが運動技能を楽しみながら上達できる環境を整える。
- 「できる」体験を通じて自信を育む。
2. アプローチの種類
- 過程指向型アプローチ
- バランスや筋緊張、視知覚機能など基礎的な機能を高める。
- 例: 感覚統合法や感覚統合指向型手法。
- 課題指向型アプローチ
- 実際の運動スキル(例: 縄跳び、文字を書く)の改善に焦点を当てる。
- 例: コアップアプローチや神経運動課題訓練(NTT)。
- 特にエビデンスが高く、推奨される方法。
- 年齢に応じた対応
- 幼児期は過程指向型を優先し、基礎スキルを強化。
- 学童期以降は課題指向型を併用して応用力を育む。
3. 具体的なアプローチ例
粗大運動へのアプローチ
- 縄跳び:最初はロープを使わず「ジャンプのタイミング」だけを練習する。
- ボールキャッチ:柔らかいボールを使い、短い距離から徐々にステップアップ。
- 姿勢保持:バランスボールやクッションで遊びながら体幹を鍛える。
微細運動へのアプローチ
- 箸:トングや矯正箸を使い、徐々に本物の箸に慣れる。
- ボタン:おもちゃや練習キットで遊びの中で練習する。
- 字を書く:太い鉛筆やガイド付きノートを活用してストレスを軽減する。
4. アプローチの進め方
- 楽しさを重視
- 子どもが「できた!」と感じられる道具や環境を整える。
- 遊びの中で取り組むことでモチベーションを維持。
- スモールステップで進める
- 難しい運動を繰り返すのではなく、簡単なステップから始める。
- 子どもの「考える力」を活用
- 「どうやったらうまくできるか?」を一緒に考える時間を作る。
- 柔軟な課題設定
- 子どもに合わせてルールを変更し、取り組みやすくする。
- 環境と家族の協力
- 適切な道具やスペースを用意する。
- 家族も一緒に取り組むことで、継続しやすい環境を作る。
5. 励ましの声かけ例
- 「前回うまくできたことをもう一度やってみよう!」
- 「失敗してもいいよ。何回かやったらきっとできる!」
- 「少しずつ上手くなるのが楽しいね!」
④ 振り返りと見直し
- アプローチの効果を定期的に振り返る。
- 「目標に近づいているか?」
- 「困りごとは軽減しているか?」
- 「アプローチに子どもが楽しく取り組めているか?」
配慮の基本方針
- 運動が得意な子と同じ方法を押し付けない
- その子に合ったペースやステップを考える。
- 失敗を責めず、成功体験を積み重ねる
- 小さな成功も大きく褒め、子どもの自信につなげる。
- 生活全体の質を向上させることを優先
- 運動の不器用さを改善することが最終目標ではない。
7. よくある質問
アプローチを始める際、何から手をつければいいですか?
まずはお子さんが楽しめる課題から始めましょう。
難易度が低く、成功体験を得やすいものがおすすめです。
たとえば、柔らかいボールを使った簡単なキャッチ練習などが適しています。子どもが運動や課題に取り組むのを嫌がる場合、どうしたらいいですか?
楽しさを優先し、プレッシャーを感じさせない工夫をしましょう。
遊び感覚で取り組むようにしたり、子どもの好きなキャラクターやアイテムを取り入れると効果的です。スモールステップで進めるとは具体的にどういうことですか?
一度に複雑な課題をさせるのではなく、1つの動作や部分に絞って練習することです。
たとえば、縄跳びなら「ジャンプだけを練習」→「ロープを回さずに飛ぶ」→「ロープを回して飛ぶ」のように進めます。環境を整えるとは、具体的に何をすればいいですか?
お子さんが取り組みやすい道具やスペースを用意することです。
たとえば、柔らかいマットやバランスボール、滑り止め付きの鉛筆など、課題に適したものを選びましょう。過程指向型アプローチと課題指向型アプローチはどう使い分ければいいですか?
幼児期は基礎スキルを高める「過程指向型」が適しています。
学齢期以降は、実際の課題を重視する「課題指向型」を組み合わせると効果的です。子どもが課題に成功したとき、どのように褒めたらいいですか?
成果だけでなく、努力の過程を具体的に褒めましょう。
「頑張ってジャンプの練習をしたね!」や「ボールを追いかけるのがすごく上手だったよ!」と伝えると、子どもがやる気を維持しやすくなります。家族の協力が難しい場合、どうしたらいいですか?
小さなタスクを分担する形で協力をお願いするのが効果的です。
たとえば、家族が子どもの練習に付き添う日を週1回だけ設定するなど、無理のない形で巻き込みましょう。環境や道具を変えるのに費用がかかるのでは?
必ずしも高価な道具は必要ありません。
柔らかいボールや百均で購入できる練習グッズなど、手頃なものから始めてみましょう。
また、家庭にあるクッションやタオルでも代用できます。子どもが失敗を恐れて課題を避ける場合、どう対応すればいいですか?
「失敗しても大丈夫」という安心感を与えましょう。
「何回もやればできるようになるよ」「失敗は次の成功へのステップだね」と声かけを工夫すると良いです。課題に取り組む時間はどれくらいが理想ですか?
子どもの集中力に合わせて、短い時間から始めるのがおすすめです。
5~10分程度から始め、楽しく取り組めると感じたら徐々に延ばしていきましょう。
8. まとめ:子どもに寄り添ったサポートを
運動が苦手な子どもたちを支援する際には、その特性に寄り添ったアプローチが重要です。
家庭や学校、専門家との連携を深めながら、小さな成功体験を積み重ねていきましょう。
この記事が子どもの生活を豊かにするヒントとなれば幸いです。
次回予告
次回は、「運動スキルへのアプローチ事例」をご紹介します。
お見逃しなく!