はじめに
発達特性を持つ子どもにとって、日常生活で記憶や注意を保つのが難しいことがあります。
その背景には、「ワーキングメモリ(作業記憶)」の機能が深く関わっています。
ワーキングメモリとは、短期間に情報を保持・操作する力のことで、学習や生活に欠かせない重要な能力です。発達障害を持つ子どもたちの多くはこの機能が弱く、集団行動やコミュニケーションにおいて困難を感じることが少なくありません。
私の4歳の息子も、自閉スペクトラム症の影響でワーキングメモリの弱さを感じることが多くあります。特に幼稚園での集団行動や、複数の指示を一度に受けたときに混乱してしまい、スムーズに行動することが難しいようです。運動会の練習では、全体の指示についていくのが苦手で、友達との遊びでも順番を守れずトラブルになることがよくありました。
しかし、ワーキングメモリのトレーニングを始めてから、少しずつ変化が見られるようになってきました。
例えば、神経衰弱のカードゲームを通して記憶力が向上し、以前よりも落ち着いて取り組めるようになっています。
ストーリーテリングの遊びでは、物語の内容を覚えて自分の言葉で話すことができるようになり、コミュニケーションにも自信がついてきているようです。
この記事では、ワーキングメモリと発達障害の関係、そして私が息子と一緒に実践している具体的なトレーニング方法をご紹介します。
日常の遊びを通じてワーキングメモリを楽しく鍛えられる方法を知り、子どもたちが自信を持って成長できる手助けになれば幸いです。
目次
- ワーキングメモリとは?その役割と重要性
- 神経衰弱ゲームでワーキングメモリを強化する方法
- 物語遊びで言語性ワーキングメモリを育む方法
- 積み木を使った視覚性ワーキングメモリのトレーニング
- 数の概念を学ぶワーキングメモリのトレーニング方法
- まとめ
1. ワーキングメモリとは?その役割と重要性
ワーキングメモリは、情報を短期間保持しながら操作するための認知機能です。
ワーキングメモリを使用する場面
情報の一時的な保持:
例えば、短時間で大量の情報を覚えるとき。(例)電話番号を一時的に覚えるとき
情報の操作と更新:
問題を解決するために複数のステップを思い出す必要がある場面。
読みながら新しい情報を結びつけて理解する場面。
(例)数学の問題を解く際の手順を記憶しておくとき
ワーキングメモリは、以下のような場面で重要な役割を果たし、学習や行動のコントロール、社会的なスキルに深く関わります。
ワーキングメモリの重要性
学習の基盤:数学の計算や読解力、問題解決に不可欠です。
行動のコントロール:情報を保持することで適切な行動が選択できます。
社会的スキル:友達との会話でも、順序や内容を覚えることで、コミュニケーションがスムーズになります。
また、研究によれば、ワーキングメモリのトレーニングは学習障害やADHDを持つ子どもたちの学業成績や問題解決能力を高める効果があるとされています。
2. 神経衰弱ゲームでワーキングメモリを強化する方法
神経衰弱は、視覚な的ワーキングメモリを鍛えるために非常に効果的です。
ランダムに並べたカードの位置と内容を覚えながらペアを揃えていくカードゲームで、短期記憶や集中力を育む効果があります。
トレーニング効果
記憶力の向上:視覚情報を短期間保持する力が鍛えられます。
集中力の向上:
プレイヤーは一度に2枚のカードしか確認できないため、他のカードに気を取られないよう、ゲームを通じて集中力が育まれます。
反応速度の向上:ペアを見つける速度を上げることで、瞬発的な判断力が鍛えられます。
応用例
難易度調整:
カードの枚数を増やしたり、複雑な模様のカードを使うことで、難易度を上げられます。
これにより、より高度なワーキングメモリのトレーニングが可能です。
時間制限:一定時間内でペアを見つけるようにルールを追加することで、選択的注意とワーキングメモリの同時トレーニングが可能です。
神経衰弱のような視覚的な短期記憶ゲームを使用したトレーニングが、特に発達障害のある子どもたちにおいて注意力と認知能力を向上させることを示されています。
3. 物語遊びで言語性ワーキングメモリを育む方法
物語遊びは、言語性ワーキングメモリを鍛えるために効果的です。
言語性ワーキングメモリとは、言葉に関する情報を一時的に保持し、理解する力のことで、読解力や会話の流れを理解するために非常に重要です。
物語遊びを通たトレーニング方法
質問する:内容に関する簡単な質問をして、子どもが話の流れを思い出しながら説明する練習ができます。
要約をさせる:物語の要点をまとめることで、情報の整理と再構築力が養われます。
語彙力や読解力の向上に寄与することを示した研究で、特に学習に困難を抱える子どもたちにとって、ストーリーテリングや言語に基づくワーキングメモリ訓練が、効果があることが明らかにされています。
4. 積み木を使った視覚性ワーキングメモリのトレーニング(模倣と反転)
視覚性ワーキングメモリとは、視覚情報を保持し操作する能力です。
例えば、目の前にある物体を見て、それを頭の中で操作したり、空間的に再配置する際に使われます。
積み木遊びを通して、視覚性ワーキングメモリを強化しましょう。
積み木を見せた後に同じ構造を再現させたり、反転して再現させることで、視覚的情報の保持と操作能力が鍛えられます。
積み木を使ったトレーニング方法
模倣:大人が積み木で作った構造物を、子どもに見せ、その通りに作らせることで、視覚情報を記憶し再現する力が鍛えられます。
反転トレーニング:積み木の構造物を見せた後、その構造を反転(逆さに)させて作り直させることで、空間的な認知能力を強化し、視覚情報の操作能力を高めます。
研究によれば、積み木を使ったトレーニングは、空間認知能力だけでなく、数学的思考や問題解決能力をも向上させる効果があり、特に、反転操作を行うことで、脳の右半球の活動が促進され、より高度な認知能力が育まれます。
5. 数の概念を学ぶワーキングメモリのトレーニング方法
数感覚は、数の大小や量の違いを直感的に理解する能力で、算数の基礎になります。
数字カードや「買い物ごっこ」のような遊びを通じて、楽しく数の概念を学ぶことができます。
数概念を学ぶワーキングメモリトレーニング方法
数字のカードゲーム:
数字が書かれたカードを使い、数を覚えてもらいながら順番に並べ替えたり、簡単な足し算を行うことで、数感覚とワーキングメモリの強化が図れます。
買い物ごっこ:遊びながら子どもが数を扱う感覚(数の概念)を自然に身に付けられます。
数感覚のトレーニングは、数学能力や認知力全般の向上につながることが研究で示されています。
数の概念を早期に学ぶことが、将来的な数学的スキルに影響を与えることが確認されています。
まとめ
ワーキングメモリを鍛えるために特別な教材は必要ありません。
実は、日常生活で楽しみながらできるゲームや遊びを取り入れるだけで、子どもの成長に大きな効果があります。
たとえば、神経衰弱や、物語を一緒に作って話す遊び、積み木での模倣や反転遊びなど、どれも記憶力や集中力、認知能力を高め、将来の学習や社会的スキルに良い影響を与えるものです。
発達障害を持つ子どもたちが、自信を持って学習やコミュニケーションに取り組む助けになるでしょう。
息子と一緒にこれらの活動を続ける中で、少しずつ成長を感じられるようになりました。
日常にこうした遊びを取り入れることで、親子の絆を深めながら、子どもが自分のペースで力を伸ばしていく様子を実感できます。
焦らず、楽しみながら取り組んでみてください。
これらの活動が、親子の絆を深め、子どもの自信や認知能力を育み、さらなる成長を支えてくれるはずです。
次回予告
次回は、「ワーキングメモリと学習障害:学習における困難をどうサポートするか」についてお話しします。どうぞお楽しみに!