はじめに
未就学児の発達障害児を支えるために、家庭でできる「行動介入」の具体的な方法をご紹介します。
この記事では、基本のステップから成功するためのコツ、よくある悩みとその解決策まで、実践的な情報をお届けします。
目次
- 【基礎知識】 行動介入とは?
- 行動介入の具体的な方法:3つの基本原則
- 適切な行動をしたらほめる
- 不適切な行動をしたら無視する
- 不適切な行動をしそうなときは置き換える
- 行動介入のステップと具体例:3つのキーワード
- SD(声掛けとセッティング)
- プロンプト(手助け)
- 強化子(ごほうびと誉め言葉)
- 行動介入の信頼できる3つの科学的根拠
- 我が家の工夫とエピソード
●エピソード
●心理士さんのコメント
●ご褒美を取り入れた具体例
●感想 - 保護者の悩みと解決策
- 行動介入を成功させるためのコツ
- まとめ
1.【基礎知識】 行動介入とは?
行動介入とは、子どもの特性に合わせた教育を通じて成長をサポートする手法です。
- 「行動」: 短い動作の一つひとつを指します。
- 「介入」: その行動に働きかけ、成長を積極的に支援することを意味します。
この方法は「応用行動分析(ABA)」や「行動療法」とも呼ばれることがあります。
厳密には若干の違いがありますが、発達障害の子どもに関する支援ではほぼ同じ意味として使われることが多いです。
共通するのは、「子どもの行動を細かく観察し、適切な方向へ導く」という点です。
行動介入の開始時期と効果
- 開始時期: 2歳頃から始めることが可能です。
- 未就学児期の効果:
- 日常生活スキルの向上
- 社会性の習得
- 困りごとの軽減
- 年齢が上がると重要になる点:
- 言葉の理解の深まり
- 社会性の発達
- 日常生活の過ごし方の指導
2. 行動介入の具体的な方法:3つの基本原則
① 適切な行動をしたらほめる
子どもは、誉め言葉や肯定的な反応により「その行動をもっとやりたい!」と感じます。
- 例:
おもちゃを片付けたら「きれいに片付けてくれてありがとう!助かったよ」と笑顔で伝える。 - ポイント:
誉めるタイミングは、行動直後が効果的。できれば具体的に何を誉めているか伝えると◎。
② 不適切な行動をしたら無視する
子どもが注意を引くために困った行動をする場合、大人が反応すると行動が強化されてしまいます。
- 例:
床に寝転んで駄々をこねた場合、無視して落ち着くまで待つ。 - ポイント:
「無視」は冷たくするわけではなく、適切な行動に戻ったらそのタイミングで誉めます。
③ 不適切な行動をしそうなときは置き換える
子どもがやりがちな困りごとを、あらかじめ適切な行動に誘導します。
- 例:
テーブルを叩きそうなときに「ここにシールを貼ってみる?」と誘う。 - ポイント:
置き換え行動は事前準備がカギ。その子が好きなものや関心があるものを用意しておきましょう。
3. 行動介入のステップと具体例:3つのキーワード
① SD(声掛けとセッティング)
SDとは「行動を起こすための直接のきっかけとなる刺激」のことです。
たとえば、「この絵本を読んで」と声をかけつつ、絵本を子どもの手の届く場所に置く。
⇒ 目の前にある絵本と声の両方がSDです。
- 例1: 「ボールを持ってきて」と声をかけながら、ボールを子どもの見える場所に置く。
例2: 食事の時間に「スプーンを持とう」と声をかけながら、スプーンを手の届くところに置く。
例3: 「靴を履こう」と言いながら、靴を玄関の目立つ場所に並べる。
例4: 「手を洗おう」と声をかけて、石鹸を目の前に用意する。
例5: 「お片付けしよう」と伝えながら、収納ボックスを開けておく。 - ポイント:
SDが明確であるほど、子どもは行動しやすくなります。
SDが視覚・聴覚の両方に働きかけると、行動がスムーズになります。
② プロンプト(手助け)
プロンプトは、刺激の一種で、行動を成功させるための「手助け」です。
SDが一定であることに対し、プロンプトは変化する。
- 例1: ジャケットを着るとき、袖を少し広げてあげる。
例2: お箸の使い方を教えるとき、手を軽く添えて正しい動きを示す。
例3: パズルをするとき、最初はピースを正しい位置に少し近づけてあげる。
例4: 散歩中、手を引いて信号の前で止まることを教える。
例5: 色塗りを始めるとき、色鉛筆を持つ手を軽く調整してあげる。 - ポイント:
繰り返すうちに手助けを減らし、自分でできるように促しましょう。
③ 強化子(ごほうびと誉め言葉)
望ましい行動の直後に報酬を与え、繰り返しやすくします。
行動介入では、「刺激⇒行動⇒報酬」の仕組みを活用します。
行動はその直前の刺激と、直後に与えられる報酬の影響を受けやすいと考えられています。
特に、ある行動の直後に子どもが好きなものを報酬として与えることで、その行動は繰り返されやすくなります。
ごほうびと誉め言葉を適切に使い、子どもが望ましい行動を進んで行うよう促します。
行動介入では、「声掛け → 成功 → 即座」のご褒美を繰り返します。このサイクルが行動定着のカギです。
- 例1:トイレに行けたら「シールを貼ろう!」と声をかけ、子どもが好きなキャラクターシールを渡す。
例2: おもちゃを片付けたら「すごいね!」と誉めながら、お気に入りのシールを渡す。
例3: 靴を自分で履けたら、好きなお菓子を少量渡す。
例4: 頑張って宿題を終えたら、遊びの時間を5分延長する。
例5: 歯磨きをきちんとできたら、シールを用意する。
例6: 挨拶をできたら、「偉いね」と笑顔で誉める。 - ポイント:
報酬は変化を持たせることで飽きずに取り組めます。
例:誉め言葉、大人の笑顔や満足した表情、おやつ、ジュース、好きなおもちゃ
4. 行動介入の信頼できる3つの科学的根拠
1. Lovaasらの研究(2010年)
- 概要: 行動介入(ABA)を受けた未就学児の47%が、2~3年の介入後に通常学級に移行できたと報告されています。
- 出典: Lovaas, O. I., Journal of Consulting and Clinical Psychology, 2010
2. Smithらのメタ分析(2017年)
- 概要: ABAを基盤としたプログラムを受けた子どもたちは、認知能力、言語能力、社会性の向上が見られました。
- 特筆点: 行動介入を受けたグループの平均IQが20ポイント以上上昇したケースも報告されています。
- 出典: Smith, T., Research in Developmental Disabilities, 2017
3. アメリカ心理学会(APA)の声明(2020年)
- 概要: 行動介入は特に早期段階で実施することで、以下の効果が期待されると評価されています。
- 日常生活の適応能力向上
- 家族全体のストレス軽減
- 子どもの社会的スキルや言語能力の向上
- 家庭内の問題行動の軽減
- 出典: APA公式声明、2020年
5. 我が家の工夫とエピソード
エピソード
我が家で行動介入を始めた当初、子どもがご褒美をもっと欲しがって泣くことがあり、「逆効果では?」と不安に感じることもありました。
しかし、専門家のアドバイスを受けながら工夫を加えて継続した結果、次第に子どもは適切な行動を身につけ、家庭内の雰囲気も少しずつ良くなりました。
行動介入は、一時的にうまくいかないように思えることもありますが、継続することで効果が現れることが多いと感じています。専門家のサポートを活用しながら、子どもの成長を見守っていきましょう。
心理士の先生からのコメント
- 行動介入の継続:
行動介入を継続することで、子どもの適応力が向上し、家庭内でのストレスが軽減されます。 - 親の関与の重要性:
親が積極的に関与することで、子どもの発達をより効果的にサポートできます。 - 早期介入の効果:
未就学児期からの行動介入は、将来的な社会適応能力の向上につながります。 - 個別対応の必要性:
子どもの特性に合わせた個別の支援計画が、効果的な行動介入の鍵となります。 - 家族全体のサポート:
行動介入は子どもだけでなく、家族全体の関係性を良好にする効果があります。
ご褒美を活用した具体例
行動介入の中で、「ご褒美」を取り入れることで、子どものやる気を引き出す工夫を行いました。以下は我が家で実践した例です。
- おもちゃの片付け:
おもちゃを自分で片付けたとき、「自分でお片付けできて偉いね!」と具体的に誉めます。 - 食事の準備:
食卓の準備を手伝った際、「お手伝いしてくれて助かったよ、ありがとう!」と感謝の気持ちを伝えます。 - 挨拶:
近所の人に自分から挨拶できたとき、「元気に挨拶できて素晴らしいね!」と誉めます。 - 着替え:
一人で服を着替えられたとき、「自分でお着替えできたね、すごいよ!」と伝えます。 - 手洗い:
外から帰ってきて自分から手を洗ったとき、「ちゃんと手を洗えて偉いね!」と誉めます。 - お友達との遊び:
友達と仲良く遊べたとき、「お友達と仲良く遊べてお母さん嬉しいよ!」と伝えます。 - 絵本の読み聞かせ:
集中して絵本を最後まで聞けたとき、「最後までお話聞けてすごいね!」と誉めます。 - お風呂:
自分からお風呂に入ろうとしたとき、「お風呂に入る準備できて偉いね!」と伝えます。 - お菓子の我慢:
食事前にお菓子を我慢できたとき、「ちゃんと我慢できてすごいよ!」と誉めます。 - 兄弟喧嘩:
おもちゃの取り合いで弟に譲ってあげたとき、「偉いね。優しくできたね。」と誉めます。
各場面でシールを渡したり、個別包装のお菓子を1つ渡すことを継続し、成功体験を積み重ねていきました。
行動介入を取り入れた感想
行動介入は短期間で劇的な変化を期待するものではありませんが、家庭でできる工夫を重ねることで、小さな成果を積み重ねることができます。
親子で取り組む中で、子どもの成長を見守り、家族全体が前向きに取り組む姿勢を大切にしていきたいと思います。
6. 保護者の悩みと解決策
1. 行動介入を続ける自信がありません。
初めは1日1回、5分だけでもOK。少しずつ取り組みを増やしていきましょう。
2. 子どもがご褒美をもらうためにわざと行動します。
ご褒美をあげる頻度を少しずつ減らし、最終的には誉め言葉だけでも満足できるように調整します。
3. 周囲の視線が気になります。
専門家や同じ悩みを持つ親同士のつながりを持つことで、不安を和らげましょう。
4. 子どもが嫌がる行動を続けさせるのが難しいです。
無理強いはせず、行動の一部を簡単にしたり、短時間で終わるよう調整しましょう。
5. 子どもが行動を理解しているかどうか不安です。
行動ができた後に、「何をしたか」簡単に振り返る声掛けをして確認します。
6. ご褒美を与えすぎると逆効果ではないか心配です。
褒美の内容を小さなもので始め、徐々に誉め言葉や達成感を重視する方向に移行します。
7. 子どもがすぐに飽きてしまいます。
行動の内容やご褒美を定期的に見直し、新鮮な要素を取り入れましょう。
8. 他の兄弟とのバランスが難しいです。
他の兄弟にも誉め言葉や報酬を与える場面を作り、不公平感を減らします。
9. 行動介入の成果が見えず、不安になります。
小さな成功体験を記録して振り返り、継続のモチベーションを高めましょう。
10. 子どもがプロンプトに頼りすぎてしまいます。
プロンプトの頻度や強さを段階的に減らし、成功体験を増やす工夫をします。
11. 子どもが集団生活で行動介入が難しいと感じます。
幼稚園や学校の先生と連携し、家庭での取り組みを伝えて協力を依頼します。
12. 周囲の親が自分たちを批判的に見ている気がします
同じ悩みを持つ保護者の会や専門家のサポートを受けて、安心感を得ましょう。
13. 子どものモチベーションが続きません。
行動後のご褒美だけでなく、途中で達成感を味わえる仕掛けを取り入れます。
7. 行動介入を成功させるためのコツ
- 観察力を磨く
子どもの「好き」「得意」「困りごと」をしっかり観察することで、適切な介入ができます。 - 家庭での取り組みを記録する
行動介入の記録をつけると、何が効果的だったのかがわかりやすくなります。 - 小さな成功体験を積み重ねる
初めは簡単な課題から始めましょう。 - ご褒美にバリエーションを持たせる
毎回同じご褒美だと飽きてしまうため、好きなおもちゃや誉め言葉を工夫して使います。 - 短時間で集中して取り組む
子どもが集中しやすい5~10分を目安に行動介入を実践します。 - 専門家のアドバイスを取り入れる
迷ったときは、療育センターや発達支援の専門家に相談しましょう。
まとめ
行動介入は、親が日々取り組める実践的な方法で、子どもの成長を大きくサポートします。
家庭での取り組みを続けることで、困りごとの軽減や新たなスキルの習得が期待できます。
「できた!」という子どもの笑顔は、親の努力の結果です。一歩ずつ、共に成長していきましょう。