はじめに|怒りをなくすより「怒りに流されない方法」を増やそう
「何回言ったらわかるの?」
「どうして今、それをするの?」
「もういい加減にして!」
子どもに強い言い方をしたあとで、
「また怒りすぎてしまった」
「もっと穏やかに伝えたかった」
と後悔することはありませんか?
私も、子育て中のイライラに悩み、「怒らないようにしなければ」と自分を責めたことがあります。
しかし、怒りを無理に消そうとするほど、気持ちが苦しくなることもありました。
そこで参考になったのが、認知行動療法の考え方です。
認知行動療法では、出来事そのものだけでなく、そのときに浮かんだ考えと、感情・行動のつながりに目を向けます。認知行動療法は心理的な問題に用いられる治療法ですが、本記事では、その一部である「考え方を整理する視点」を、家庭でのセルフケアとして紹介します。apa.org
たとえば、子どもが着替えない場面でも、
- 「言うことを聞かない」
- 「わざと困らせている」
- 「このままでは将来も心配」
と考えるほど、怒りは強くなりやすくなります。
一方で、
- 「切り替えるのが難しいのかもしれない」
- 「何から始めればよいかわからないのかも」
- 「今は私も時間に追われている」
と捉え直すと、次に取る行動を選びやすくなります。
この記事では、育児の怒りを整理するための「認知行動療法の考え方を取り入れた5ステップ」を、記録例や声かけ例とともに紹介します。
▶ 「まずは、怒りそうになった瞬間に使える具体的な方法を知りたい」という方は、怒らない子育ては無理?育児のイライラを減らすアンガーマネジメント8選もあわせてご覧ください。
※本記事は医療行為としての認知行動療法を提供するものではありません。つらさが強い場合や、怒鳴る・叩くなどの行動を自分で止められない場合は、医療機関や地域の相談窓口などに相談してください。
育児の怒りは「出来事」だけで決まるわけではない

認知行動療法では、次の要素を分けて考えます。
- 出来事
- その瞬間に浮かんだ考え
- 感情や体の反応
- 取った行動
子どもが飲み物をこぼした場面を例にしてみましょう。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 出来事 | 子どもがお茶をこぼした |
| 頭に浮かんだ考え | 「ふざけているからこうなる」「何度言っても聞かない」 |
| 感情 | 怒り80点、焦り60点 |
| 体の反応 | 顔が熱くなる、声が大きくなる |
| 行動 | 「いい加減にして!」と怒鳴る |
怒りを強めているのは、お茶をこぼしたという出来事だけではありません。
「何度言っても聞かない」
「親を困らせている」
という考えが重なることで、怒りが大きくなっている可能性があります。
ここで大切なのは、「考え方が間違っている」と責めることではありません。
自分の頭の中で起きていることに気づき、ほかの見方がないか検討することが目的です。
育児の怒りを整えるアンガーマネジメント5ステップ

ステップ1|起きた出来事を「事実だけ」で書く
まずは、評価や推測を入れずに、起きたことを書きます。
推測が含まれた書き方
「子どもが、私を困らせるために着替えなかった」
事実だけの書き方
「出発10分前になっても、子どもはパジャマを着て遊んでいた」
「困らせるため」という部分は、親から見た推測です。
事実と推測を分けると、状況を少し客観的に見られるようになります。
書き出す項目
- いつ起きたか
- どこで起きたか
- 子どもは何をしたか
- 自分は何を言ったか
- その後どうなったか
長い文章にする必要はありません。スマートフォンのメモに1~2行残すだけでも十分です。
ステップ2|その瞬間に浮かんだ考えを見つける
次に、怒る直前に頭に浮かんだ言葉を思い出します。
これを「自動思考」と呼ぶことがあります。
育児中には、次のような考えが浮かびやすくなります。
- 子どもは親の言うことを聞くべき
- 一度注意したらできるはず
- 親ならきちんとしつけなければならない
- また同じことをしている
- 私の育て方が悪いのかもしれない
- このままでは将来困る
- 周りからダメな親だと思われる
自動思考は、意識して選んだものではありません。
瞬間的に浮かぶため、まずは「こんなことを考えていたんだ」と気づくだけで大丈夫です。
わが家で意識したこと
「子どもに怒っている」と思っていても、振り返ると、私自身の焦りや不安が強くなっていることがあります。
特に時間に追われているときは、子どもの行動そのものより、
「遅刻したらどうしよう」
「予定どおり進まない」
という気持ちが怒りにつながりやすくなります。
怒りだけを見るのではなく、その奥にある焦りや疲れにも目を向けることが大切だと感じています。
ステップ3|怒りを0~100点で数値化する

怒りを感じたら、強さを0~100点で表します。
- 0点:怒りを感じていない
- 20点:少し気になる
- 40点:イライラしている
- 60点:口調が強くなりそう
- 80点:怒鳴りそう
- 100点:自分では止めにくい
正確な数字でなくても構いません。
「今は30点くらい」
「さっきは80点だった」
と考えるだけでも、自分の感情を少し離れたところから観察できます。


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体のサインも一緒に確認する
怒りが強くなる前には、体に変化が現れることがあります。
- 心臓がドキドキする
- 顔や頭が熱くなる
- 肩や顎に力が入る
- 呼吸が浅くなる
- 声が大きくなる
- 同じ言葉を繰り返す
自分のサインがわかると、怒りが爆発する前に休憩を取りやすくなります。
子どもの感情だけでなく、親の気持ちも見える化したい場合は、以下のカードも活用できます。
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ステップ4|怒りを強める「考え方のクセ」を確認する
子育て中は、疲れや焦りによって考え方が極端になることがあります。
代表的なパターンを見てみましょう。
| 考え方のクセ | 怒りを強める考え | 柔軟な捉え方 |
|---|---|---|
| 「べき」思考 | 一度言ったらやるべき | 何度か確認が必要なこともある |
| 白黒思考 | できないなら全部ダメ | 一部分だけできているかもしれない |
| 決めつけ | わざと困らせている | 理由をまだ確認していない |
| 一般化 | いつも言うことを聞かない | 今日できなかった場面があった |
| 先読み | このままでは将来も困る | 今日の出来事だけで将来は決まらない |
| 自分への責め | 私の育て方が悪い | 子どもの発達や体調、環境も関係する |
捉え直すことは、子どもの行動をすべて許すことではありません。
危険な行動や、人を傷つける行動は止める必要があります。
ただし、必要な注意と、感情的に責めることは別です。
▶ 「子どもを思いどおりに動かさなければ」と苦しくなったときは、人は自分しかコントロールできない視覚支援カードで、自分が選べることと相手に任せることを整理してみてください。
ステップ5|今できる「小さな行動」を1つ選ぶ

考えを整理したら、次に取る行動を決めます。
その場ですべて解決しようとせず、今できることを1つだけ選びましょう。
朝の着替えが進まないとき
- 「上と下、どちらから着替える?」と選ばせる
- 服を1枚だけ手渡す
- タイマーを使う
- 出発時間を絵や時計で見せる
- 親が焦っている場合は一度深呼吸する
片付けないとき
- 「全部」ではなく「赤いおもちゃを3個」と伝える
- 親子で1個ずつ片付ける
- 次の予定を先に知らせる
- 一度に複数の指示を出さない
かんしゃくが起きたとき
- 安全を確保する
- 言葉を増やしすぎない
- 親も少し距離を取る
- 落ち着いてから振り返る
感情が高ぶっている最中は、考え方を整理する余裕がないこともあります。
その場合は、安全確保とクールダウンを優先し、認知行動療法的な振り返りは落ち着いてから行います。
コピペして使える「育児の怒り記録シート」
怒ってしまった日だけでなく、「怒りそうだったけれど対応を変えられた日」も記録してみましょう。
| 記録する項目 | 記入例 |
|---|---|
| 起きた出来事 | 出発前になっても子どもが着替えなかった |
| 頭に浮かんだ考え | また遅刻する。何度言っても聞かない |
| 感情と強さ | 怒り80点、焦り70点 |
| 体のサイン | 顔が熱い、声が大きくなる |
| 実際に取った行動 | 「早くして」と強く言った |
| ほかの見方 | 遊びから切り替えにくかったのかもしれない |
| 次に試すこと | 5分前に予告し、服を2つから選ばせる |
毎日書かなくても構いません。
同じ場面で何度も怒っていると気づいたら、その場面だけを記録してみてください。
記録を続けると、
- 怒りやすい時間帯
- 苦手な場面
- 寝不足や疲労との関係
- よく浮かぶ考え
- 効果があった対応
が見つかりやすくなります。
ストレスを減らす方法も一緒に探したい方は、以下の記事も参考にしてください。
▶ 忙しいママにおすすめ!今すぐできるストレス解消アイデア11選
▶ 怒りの記録から「寝不足の日」「予定が多い日」「一人で対応している日」にイライラが強くなると分かったら、考え方だけでなく負担そのものを減らす必要があります。[発達障害の子育てに疲れた親のメンタルケア習慣10選]も参考にしてください。
「6秒ルール」は怒りを消す方法ではなく、反応を遅らせる工夫

アンガーマネジメントでは、怒りを感じたときに、すぐ反応せず数秒待つ方法がよく紹介されています。
ただし、「6秒待てば必ず怒りが消える」という意味ではありません。
怒りが落ち着くまでの時間には個人差があり、強い怒りが数分以上続くこともあります。
大切なのは、衝動のまま言葉や行動に移す前に「間」をつくることです。
▶怒りの記録から「寝不足の日」「予定が詰まっている日」にイライラしやすいと分かったら、考え方だけでなく休息も必要です。忙しいママが今すぐできるストレス解消アイデア11選では、短時間で取り入れられるセルフケアを紹介しています。
間をつくる方法
- 息を長めに吐く
- 水を一口飲む
- その場から一歩下がる
- 手を洗う
- 「今は話さない」と決める
- 子どもの安全を確認して別室へ移動する
深呼吸が合わない人は、数を数えたり、水を飲んだりしても構いません。
自分に合う方法を2~3個用意しておくと、選びやすくなります。
伝え方を変える|アイメッセージの基本
怒りが少し落ち着いたら、「あなた」を主語にして責めるのではなく、「私は」を主語にして伝えます。
基本の3ステップ
- 見た事実
- 自分の気持ちや困りごと
- 具体的なお願い
着替えないとき
×「何回言ったら着替えるの?」
○「まだパジャマを着ているね。そろそろ出発したいから、上の服から一緒に着替えよう」
おもちゃを片付けないとき
×「いつまで散らかしているの?」
○「床におもちゃがあると踏みそうで心配なの。赤いおもちゃを3個、箱に入れてほしいな」
大きな声を出しているとき
×「うるさい!静かにして!」
○「大きな声だと話が聞き取りにくいよ。少し小さな声で話してほしいな」
アイメッセージを使っても、子どもが必ずすぐ行動するとは限りません。
それでも、人格を責めずに「何をしてほしいか」を具体的に伝えることで、親子ともに次の行動を理解しやすくなります。
▶ 親の伝え方とあわせて、子ども自身が気持ちを落ち着ける方法も練習したい方は、子どもの感情コントロールを育てる家庭でのサポートも参考にしてください。
「スルーする場面」と「止める場面」を分ける
すべての行動に反応していると、親のエネルギーがなくなってしまいます。
あらかじめ線引きを決めておくと、注意する場面を減らせます。
見守ってよいこと
- 靴を左右逆に履いた
- 洋服の組み合わせが独特
- 時間に余裕があるときのゆっくりした行動
- 多少の失敗で本人が学べること
- 一時的な不機嫌や愚痴
すぐ止めること
- 道路へ飛び出す
- 高い場所から飛び降りようとする
- 人を叩く、押す、蹴る
- 物を投げて人を傷つける可能性がある
- 命や健康に関わる行動
危険な場面では、長い説明よりも、まず行動を止めます。
「止まって」「叩かない」「ここを歩く」など、短く具体的に伝え、詳しい話は落ち着いてから行いましょう。
コントロールできるのは「子ども」ではなく自分の対応
親がどれだけ丁寧に伝えても、子どもが思いどおりに動かないことはあります。
親が直接選べるのは、
- どんな言葉を使うか
- どこまで手伝うか
- その場を離れるか
- 誰かに助けを求めるか
- どのルールを優先するか
という自分の対応です。
「子どもを変えなければ」と考え続けると、思いどおりにならないたびに怒りや無力感が強くなります。
自分と相手のコントロール範囲を整理したい方は、こちらの視覚支援カードも参考にしてください。
▶ 【子どもの自信を育てる】人は自分しかコントロールできない視覚支援カード|親子関係が楽になる考え方
怒鳴ってしまった後にできる親子関係の修復
アンガーマネジメントを実践していても、怒りすぎる日はあります。
そのときは、「もう取り返しがつかない」と考えるのではなく、落ち着いてから関係を修復します。
修復の4ステップ
- 自分の行動を認める
- 言い訳をせずに謝る
- 子どもの気持ちを聞く
- 次にどうするか伝える
声かけ例
「さっきは大きな声で怒ってごめんね。怖かったよね。片付けてほしかったけれど、あの言い方はよくなかった。次は一度休んでから話すね」
「あなたが悪いから怒鳴った」と責任を子どもに戻さないことが大切です。
怒った後の具体的なフォローは、こちらの記事で詳しく紹介しています。
▶ 謝り方や翌日以降の関わり方まで詳しく知りたい方は、子どもに怒りすぎて後悔したときの親子関係を修復する5ステップで具体的に紹介しています。
アンガーマネジメント本・ワークブックを選ぶポイント
一人で記録するのが難しい場合は、アンガーマネジメントや認知行動療法のワークブックを使う方法もあります。
選ぶときは、次の点を確認しましょう。
- 育児中の具体例が掲載されている
- 読むだけでなく書き込める
- 専門家が執筆・監修している
- 怒りを我慢させる内容だけになっていない
- 自分を責めない構成になっている
私が実際に読んで役立った本や、書き込み式のワークブックはこちらにまとめています。
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一人で抱え込まず相談したいサイン
次のような状態が続く場合は、セルフケアだけで解決しようとせず、相談先を利用してください。
- 怒鳴ることを自分で止められない
- 子どもを叩く、強く揺さぶることがある
- 物に当たってしまう
- 子どもと離れたい気持ちが強い
- 怒りや落ち込みで日常生活に支障がある
- 眠れない、食べられない状態が続いている
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こども家庭庁も、体罰などによらない子育てを進めるため、保護者を孤立させず、必要な支援につなげることの重要性を案内しています。www.cfa.go.jp
身近な人、小児科、かかりつけ医、保健センター、子育て支援センターなどに相談して構いません。
電話で話しにくい場合は、こども家庭庁の「親子のための相談LINE」も利用できます。www.cfa.go.jp
子どもの安全を保てない可能性がある場合は、児童相談所虐待対応ダイヤル「189」へ相談できます。www.cfa.go.jp
よくある質問
認知行動療法を使えば怒らなくなりますか?
怒りを完全になくす方法ではありません。
出来事・考え・感情・行動を整理し、怒りに流された行動を減らすための考え方です。
考え方を変えるのは、自分が我慢することですか?
違います。
「私が悪い」と我慢するのではなく、事実と推測を分け、必要な要求を落ち着いて伝えるために行います。
怒っている最中に記録できません
その場で書く必要はありません。
怒りが強いときは、安全確保とクールダウンを優先し、落ち着いてから振り返りましょう。
怒りを数値化しても落ち着きません
数値化の目的は、すぐ怒りを消すことではありません。
怒りやすい場面や、爆発する前のサインを見つけることに意味があります。
6秒待てば必ず怒りが収まりますか?
必ず収まるわけではありません。
数秒待つ方法は、反射的に怒鳴る前に「間」をつくるための工夫です。
アイメッセージなら子どもは言うことを聞きますか?
必ず行動するとは限りません。
ただし、責める言葉を減らし、親の困りごとと具体的なお願いを伝えやすくなります。
毎日記録しなければ効果はありませんか?
毎日でなくても構いません。
繰り返し怒ってしまう場面だけ記録すると、パターンを見つけやすくなります。
パートナーの怒りもコントロールできますか?
相手の感情や行動を直接コントロールすることはできません。
自分の伝え方を工夫しつつ、暴言や暴力がある場合は、安全を優先して外部に相談してください。
子どもを叩きそうになったらどうすればいいですか?
まず子どもの安全を確保し、可能であればその場を離れてください。
家族や支援者へ連絡し、一人で抱え込まないことが重要です。危険が迫っている場合は、緊急の相談先を利用してください。
まとめ|怒りを責めるのではなく、考えと行動を整理しよう
育児中に怒りを感じること自体は、親として失格という意味ではありません。
大切なのは、怒りを感じないように我慢することではなく、怒りに流される前後の流れを知ることです。
今回紹介した5ステップは、次のとおりです。
- 起きた出来事を事実だけで書く
- その瞬間に浮かんだ考えを見つける
- 怒りを0~100点で数値化する
- 考え方のクセを確認する
- 次にできる小さな行動を選ぶ
すべてを一度に実践する必要はありません。
まずは、繰り返し怒ってしまう場面を1つ選び、
「何が起きた?」
「私は何を考えた?」
と振り返るところから始めてみてください。
怒ってしまった日があっても、落ち着いたあとからやり直せます。
怒りをなくすことではなく、怒りに任せて傷つける行動を少しずつ減らしていくことが、親子双方を守るアンガーマネジメントです。
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