はじめに
「早くして!」「もう何回言ったら分かるの?」
忙しい朝、ついそんな言葉が出てしまうことはありませんか。
私も、発達特性のある息子に「早くして」「ちゃんとして」と言ってばかりだった時期がありました。
でも、幼稚園の準備を家で一緒にやってみたり、スモックの袖を戻す見本を見せたりするなかで、気づいたことがあります。
言葉で伝えていたつもりでも、息子には「どうすればいいか」が見えていなかったのかもしれない。
その気づきにつながったのが、山本五十六の「やってみせ」で始まる言葉でした。
この記事では、名言の意味を子育てに置き換えながら、わが家の「幼稚園ごっこ」と着替えの体験を紹介します。片付け・朝の支度・運動遊びで、見本をどう見せるかも具体的にまとめました。
大切にしたいのは、子どもが分かる伝え方と、安心して試せる機会です。
山本五十六の「やってみせ」とは?子育てに置き換えて考える
山本五十六(1884〜1943年)は、長岡出身で、連合艦隊司令長官を務めた旧日本海軍の軍人です。
長岡観光コンベンション協会の公式サイトでは、次の言葉が紹介されています。
やってみせ言って聞かせてさせてみてほめてやらねば人は動かじ
出典:長岡観光ナビ「私たち、観光ボランティアガイドがご案内します!!」
「させてみせ」と紹介されることもありますが、この記事の引用は上記サイトの表記に合わせています。
私はこの言葉を、家庭で次のように受け止めています。
| 言葉 | 子育てで大切にしたいこと |
|---|---|
| やってみせ | 子どもに見える位置で、手順や動きを示す |
| 言って聞かせて | 今していることを、短い言葉で説明する |
| させてみて | 本人が試す時間をつくり、必要な部分を手伝う |
| ほめてやらねば | できたことや工夫を、本人に伝わる形で認める |
これは、名言から私が考えた家庭での工夫です。この順番を毎回守る必要はなく、子どもが知っている部分は任せ、分からないところに戻って見せる使い方もできます。
「させてみて」も、無理にやらせることとは考えていません。「見てみる?」「一緒にやる?」と確かめながら、本人が試せる場面をつくりたいと思っています。
【体験談①】登園後に固まる息子と、家でやってみた「幼稚園ごっこ」

鞄を持ったまま、次の行動に移れなかった
ASDのある息子は、「次に何をしたらいいか」を頭の中で思い描くのが苦手でした。
幼稚園でも、登園後のルーティンが分からず、鞄を持ったまま固まってしまうことがありました。先生から相談を受けることもあり、私も気になっていました。
家庭でも、気づけば毎朝、「早くして!」「ちゃんとして!」という言葉が口癖に。
私は伝えているつもりでした。でも、それだけで息子が次の行動に移れるわけではありませんでした。
家で、準備の流れを一つずつ見せてみた
そんなときに思い浮かんだのが、山本五十六の「やってみせ」で始まる言葉です。
「これ、子育てにも使えるんじゃない?」
そう思い、家で「幼稚園ごっこ」をしてみることにしました。
朝の準備を一つずつ、順番が分かるように私がやってみせる。そのあと、息子と一緒にやってみる。
言葉で急かすだけだったときとは、伝え方を変えました。
すると、それまでつまずいていた流れに沿って、息子がすっと動けたのです。私は驚きました。
「何をすればいいか分からなかったのかも」と気づけた
その姿を見て、私ははっとしました。
息子は、わざとやらなかったのではなく、どう動けばいいか分からなかったのかもしれない。
そう考えられたことで、私のイライラもずいぶん軽くなりました。息子にとっても私にとっても、関わり方を見直すきっかけになった出来事です。
家で一度できたことが、園でもいつでも同じようにできるとは限りません。それでも、家で試したときの様子を先生に伝えれば、「どんな見せ方が分かりやすかったか」を一緒に考える手がかりになります。
▶ 幼稚園生活での困りごとや、園との連携については、幼稚園生活でよくある困りごととサポート方法でも体験を紹介しています。
【体験談②】スモックが前後逆に。見本を見せて分かったこと

参観日、着る前の状態に目を向けた
幼稚園の参観日、ふと息子を見ると、スモックが前後逆になっていました。
「どうしてこうなったんだろう?」
様子を見ていると、脱いだスモックをぐしゃっと丸めて置いていました。私は、その状態では次に着るときに向きが分かりにくいのかもしれない、と気づきました。
「正しく着てね」と伝える前に、脱いだあとの置き方も一緒に確認できそうだと思ったのです。
「どうやって?」に、袖を持って答えた
帰宅後、私は息子に声をかけました。
「脱いだらね、こんなふうに広げておくと、着るときに分かりやすいよ」
「それから、袖が裏返しになったら元に戻すんだよ」
すると息子は、素直に「どうやって?」と聞きました。
私は袖を持ち、見本を見せながら説明しました。
「ここ、丸まってるところに手を入れて……そのままキュッと引っ張るんだよ。ほら、できた」
息子は「わかった!」と返事をしました。
「元に戻して」と言うだけでは、戻し方までは伝わっていなかった。手元を見せながら説明することで、息子が理解するきっかけをつくれたのだと感じました。
完成形だけでなく、途中の動きも見せたい
この経験から、私が意識したいと思ったのは、完成した状態だけでなく、そこまでの動きを見せることです。
大人には当たり前でも、「どこを持つのか」「どちらへ引くのか」「どこに置くのか」が分からないこともある。
つまずいた場所まで戻って一つずつ見せることが、子どもに合った説明につながるのだと感じました。
▶ 見本を示したあと、どこまで手伝って、どこから任せるかに迷ったら、幼児・小学生の自立を支える関わり方と、手助けの判断目安も参考にしてください。
「やってみせ」を家庭で使う4つの工夫
国立障害者リハビリテーションセンターは、支援の工夫として、視覚的な情報提示、具体的・個別的な関わり、本人の自己決定などを紹介しています。また、課題を細かく分けるスモールステップも説明されています。
以下は、それらも参考にした家庭での取り入れ方です。名言そのものを、特定の療育プログラムとして扱うものではありません。
1.見せたい動きを、一つに絞る
最初から最後まで一気に実演すると、どこを見ればよいか分かりにくい場合があります。
スモックなら、「裏返った袖を戻す」。片付けなら、「ブロックを一つ、決まった箱へ入れる」。まず一つの動きを見せます。
子どもの目に手元が入る位置で、ゆっくり見せてみましょう。同じ向きから見る方が分かりやすいか、向かい合った方が見やすいかも、本人の様子に合わせます。
2.見せながら、短い言葉を添える
「ちゃんとして」ではなく、「この箱に入れるよ」「ここを持つよ」のように、動きと結びつく言葉を添えます。
一度にたくさん説明せず、一つ伝えたら様子を見る。本人が考えたり動いたりする時間も待ちたいところです。
見本があれば分かる子もいれば、写真や言葉がある方が理解しやすい子もいます。伝え方は、その子に合う形を探していきます。
3.本人が試す部分と、手伝う部分を分ける
見せたあとは、「やってみる?」「ここは一緒にしようか」と声をかけてみます。
例えば、服を広げるところは親が手伝い、袖を戻すところは子どもが試す。最初から全部一人でできなくても構いません。
手を添えるときも、先に「手伝ってもいい?」と確かめます。体に触れられることが苦手な場合は、別の服で見せるなど、本人が受け入れやすい方法を選びます。
慣れてきたら、声をかける前に少し待つ、見本を示す場面を減らすなど、任せる部分を調整します。必要な手助けは残して大丈夫です。
▶ アプリやロボット玩具でも、準備は大人が手伝い、操作の一部を子どもが試す始め方があります。幼児向けプログラミング教材の選び方では、操作方法や必要な手助けを比較しています。
4.試したことを認めて、次を急がない
「袖が戻ったね」「箱に入れられたね」と、今したことを伝えます。
見て確認できたことや、「ここは手伝って」と伝えられたことも大切にしたい一歩です。
できた直後に次々と課題を増やすより、本人がその経験を味わえる余裕もつくりたいと思います。
▶ 具体的な言葉の選び方は、幼児への褒め言葉7選|場面別の声かけと体験談を参考にしてください。
場面別|片付け・朝の支度・運動遊びでの使い方
ここからは、家庭で試すときの例です。わが家の実体験を再現したものではなく、子どもの様子に合わせて調整するためのアイデアとして紹介します。
| 場面 | 見本を見せる | 本人が試す部分 | 手助け・環境の工夫 |
|---|---|---|---|
| 片付け | ブロックを一つ、箱に入れる | 同じ箱へ一つ入れてみる | 箱に中身の写真を貼る。分類が負担なら箱を減らす |
| 朝の着替え | 靴下の口を広げる動きを見せる | 広げるところ、足を入れるところなどを選ぶ | 座れる場所や、扱いやすい衣服を用意する |
| なわとび遊び | 縄を床に置き、またぐ動きを見せる | 同じ動きを試す、まず見ている、などを選ぶ | 跳ぶ・回すを分ける。疲れたら休む |
| ボール遊び | 近い距離から、ゆっくり転がす | 転がってきたボールを止めてみる | 大きさや柔らかさ、距離を変える |
診断名だけで、合う方法が決まるわけではありません。「手順が分からないのか」「動作が難しいのか」「感触が苦手なのか」など、目の前の困りごとから考えます。
運動遊びは、安全な場所で無理のない範囲に。痛みや強い不安があるとき、手助けの方法に迷うときは、支援者に相談してください。
見本を見せても進まないとき、見直したいこと
「やってみせたのに、できない」。そんなときも、親の教え方や子どもの頑張りだけで考えなくて大丈夫です。
| 子どもの様子 | 見直せそうなこと |
|---|---|
| 手元を見ていない | 遊びや作業の区切りを待つ。見やすい位置を探す |
| 途中から分からなくなる | 見せる動きをもっと小さく分ける。写真を残す |
| 分かっていそうでも動かしにくい | 衣服や道具を扱いやすくする。必要な部分を手伝う |
| 嫌がる・つらそう | 疲れ、感覚の不快さ、不安などを確かめ、休む・変えることも選ぶ |
| 家ではできるが園では難しい | 物の配置や周囲の刺激など、場面の違いを先生と確認する |
見本を増やすことが役立つ場合もあれば、環境を変える方が取り組みやすくなる場合もあります。
▶ 頑張り方や支援の見直しについては、発達特性のある子の努力をどう支える?1年以上の発音練習で感じたことにまとめています。
写真・絵カード・道具で、見本を残す方法

毎回そばで実演するのが難しいときは、写真や絵カードで手順を残す方法もあります。
例えば、広げたスモックの写真や、片付ける箱と中身が一緒に写った写真。本人が見る場所の近くに置けば、確認する手がかりになります。
▶ 無料の視覚支援カード一覧から合うものを探したり、フォトカードメーカーで実際の衣服や収納場所の写真を使ったカードを作ったりする方法もあります。
道具を買い足すなら、「どこを助けたいか」から選ぶ
カード立てや収納箱などを選ぶときは、次のように使い道を先に考えると選びやすくなります。
- カードが倒れて見えない → 置く場所に合うカード立て
- 片付ける場所が分かりにくい → 写真ラベルを貼れる収納箱
- 服の扱いが難しい → 本人が持ちやすい、着脱しやすい衣服
まずは家にある箱や、写真一枚からでも始められます。必要な工夫が分かってから道具を選べば、わが家に合うものを見つけやすくなります。
怒ってしまう日も、「次に一つ変える」でいい
見本を見せる大切さが分かっても、朝の忙しさや疲れまでなくなるわけではありません。
私にとって名言は、怒らない自分を採点するためのものではなく、「次はどこを見せたら伝わるかな」と考えるヒントです。
急いでいる朝に、毎回練習をする必要もありません。その場では手伝い、落ち着いて過ごせる休日などに、短く一緒に試す方法もあります。
家族で共有するときも、全員が同じせりふを使わなくて大丈夫。「袖を戻すところを見せたら分かりやすそうだったよ」など、役立った手助けを一つ伝えるだけでも、次の関わりにつながります。
余裕がある週末や月に一度、最近の様子を話すくらいでも構いません。
▶ 自分を責めてしまうときは、育児の完璧主義をやめたい|自分を責めていた私が見直した7つの思い込みも読んでみてください。
よくある質問
山本五十六の「やってみせ」は、子育てでも使えますか?
見本を示す、分かりやすく説明する、本人が試す、取り組みを認めるという視点を、家庭での関わりを考えるヒントにできます。わが家では、幼稚園ごっこや着替えの場面で役立ちました。
名言の通りにすれば、子どもは必ず動きますか?
取り組みやすさは、そのときの体調や不安、動作の難しさ、環境などでも変わります。進まないときは、「もっと見せる」以外の手助けも一緒に探してみましょう。
見本は何回見せればよいですか?
一律の回数はありません。本人の反応を見ながら、つまずいた部分をもう一度示したり、写真を残したりします。疲れたときは、別の機会に試しても大丈夫です。
親が手伝うと、自立を妨げませんか?
必要な部分を手伝うことで、本人が試せる部分が増えることもあります。「全部一人で」を急がず、できる部分や本人の希望に合わせて、任せる範囲を調整します。
発達特性のある子にも取り入れられますか?
その子が分かりやすい方法を探す際のヒントになります。見本・言葉・写真のどれが合うか、手助けが必要なのはどこかを、本人の様子や支援者の助言に合わせて考えます。
時間がなくて、やってみせる余裕がありません。
毎回でなくて大丈夫です。急ぐ場面では手伝い、時間のあるときに一つの動きだけ試す方法もあります。写真や絵カードで、確認しやすくする工夫もできます。
まとめ|「何回言えば」から「どこを見せよう」へ
山本五十六の「やってみせ」という言葉は、私にとって、子どもへの伝え方を見直すきっかけになりました。
鞄を持ったまま固まっていた息子と、家で試した幼稚園ごっこ。
スモックの袖の戻し方を聞かれ、手元を見せながら説明した時間。
どちらも、「伝えたつもり」と「子どもに分かること」の間に、まだできる工夫があると気づかせてくれました。
まず一つ見せる。短い言葉を添える。一緒に試して、任せられる部分を探す。
そんな関わりを、余裕のある場面から取り入れていけたらと思っています。