はじめに
「何度言っても動いてくれない」
「次に何をするのか分からず不安定になる」
「朝の準備、片付け、外出、寝る前の流れが毎日大変」
ASDの子どもを育てていると、こうした困りごとに悩むことがあります。
わが家の長男にもASD・ADHD・DCD・吃音があり、幼児期から見通しが立たない場面や、切り替えが必要な場面でつまずくことが多くありました。
特に大変だったのは、
- 朝の準備
- 片付け
- 外出前
- 食事中
- お風呂
- 寝る前
- 買い物や外食
- 気持ちを言葉で伝えること
でした。
「早くして」
「片付けて」
「次はお風呂だよ」
と何度言っても、なかなか伝わらない。
でも、療育や児童発達支援で視覚支援や構造化の考え方を知ってから、少しずつ家庭での関わり方が変わりました。
その中で出会った考え方のひとつが、TEACCHです。
TEACCHは、ASDの子どもに「もっと頑張らせる」方法ではありません。
子どもが分かりやすい形に環境を整え、見通しを持てるようにする支援です。
この記事では、TEACCHとは何か、視覚支援との違い、家庭でできる具体例17選を、わが家の体験談を交えてまとめます。
※この記事は医療的な診断や専門的な治療を目的としたものではありません。支援方法に迷う場合は、療育センター、発達外来、児童発達支援、作業療法士、相談支援専門員などに相談してください。
TEACCHとは?
TEACCHは、アメリカのノースカロライナ大学で始まった、自閉スペクトラム症のある人への支援・教育の考え方です。
正式名称は、
Treatment and Education of Autistic and related Communication-handicapped Children
の略とされています。
現在は、子どもだけでなく、ASDのある人の生活全体を支える考え方として知られています。
TEACCHで大切にされているのは、子どもを無理に環境へ合わせることではありません。
その子の特性を理解し、分かりやすい環境を整えることです。
家庭で取り入れる場合は、難しく考えすぎなくて大丈夫です。
ポイントは、
- 何をするのか分かる
- どこでするのか分かる
- いつ終わるのか分かる
- 終わったら次に何をするのか分かる
という状態を作ることです。
ASDの子どもは、言葉だけの説明より、目で見て分かる情報の方が理解しやすいことがあります。
だからこそ、絵カード、写真、スケジュール表、手順表、収納ラベルなどが役立ちます。
TEACCHの基本は「構造化」
TEACCHを家庭で取り入れるときに大切なのが、構造化です。
構造化とは、子どもが分かりやすいように、場所・時間・手順・終わりを整理することです。
場所を分かりやすくする
たとえば、
- 勉強する場所
- 遊ぶ場所
- 着替える場所
- 片付ける場所
- 落ち着く場所
を分けると、子どもが「ここでは何をするのか」を理解しやすくなります。
わが家でも、片付ける場所を写真やラベルで分かるようにしたことで、「どこに戻せばいいの?」が減りました。
時間を分かりやすくする
ASDの子どもは、急な予定変更や終わりが見えない活動が苦手なことがあります。
そのため、
- 今日の予定
- 朝の流れ
- 寝る前の流れ
- あと何分で終わるか
- 次に何をするか
を見える形にすると安心しやすくなります。
手順を分かりやすくする
「準備して」だけでは、何をすればよいのか分かりにくいことがあります。
そんなときは、
- 服を着る
- 歯をみがく
- カバンを持つ
- 靴を履く
のように、行動を小さく分けると動きやすくなります。
TEACCHと視覚支援の違い
TEACCHと視覚支援は、よく一緒に使われます。
ただ、まったく同じ意味ではありません。
| 項目 | 視覚支援 | TEACCH |
|---|---|---|
| 主な役割 | 情報を見える形にする | 生活全体を分かりやすく整える |
| 例 | 絵カード、写真、スケジュール表 | 視覚支援+場所・手順・時間・終わりの構造化 |
| 目的 | 今することを分かりやすくする | 自分で動きやすい環境を作る |
| 家庭での使い方 | カードや表を使う | 部屋・収納・予定・手順を整える |
視覚支援は、TEACCHの中でもよく使われる方法のひとつです。
つまり、TEACCHは「視覚支援だけ」ではなく、子どもが安心して行動できるように生活全体を整える考え方です。
家庭でTEACCHを取り入れるメリット
家庭でTEACCHの考え方を取り入れると、親子どちらにもメリットがあります。
子どもが見通しを持ちやすくなる
次に何をするのか分かると、不安が減りやすくなります。
特に、朝の準備や外出前、寝る前など、毎日くり返す場面では効果を感じやすいです。
声かけの回数が減る
カードや手順表があると、親が何度も言わなくても、子どもが自分で確認できるようになります。
わが家でも、「次は何だっけ?」と聞くと、カードを見て動けることが増えました。
「自分でできた」が増える
TEACCHの目的は、子どもを管理することではなく、自立を助けることです。
見て分かる環境があると、子どもが自分で考えて動ける場面が増えていきます。
家庭でできるTEACCH支援17選
ここからは、わが家でも取り入れてきた家庭でできるTEACCH支援を紹介します。
どれも完璧にやる必要はありません。
「今いちばん困っている場面」から1つだけ試すくらいで大丈夫です。
1. 朝の準備をカードで見える化する
視覚支援カードや写真カードを使う
TEACCHの家庭支援では、子どもが「次に何をするのか」を目で見て分かるようにすることが大切です。
わが家でも、朝の準備や片付け、外出前の流れを伝えるときに、言葉だけで説明するよりも、カードで見せた方がスムーズに動けることがありました。
たとえば、
- 着替え
- 朝ごはん
- 歯みがき
- トイレ
- 幼稚園・学校へ行く
- 片付け
- お風呂
- 寝る準備
などを、視覚支援カードにして並べると、子どもが流れを確認しやすくなります。
また、イラストカードだけでなく、実際の場所や持ち物の写真を使ったカードも分かりやすいです。
「自分の靴箱」「自分のカバン」「いつも使うおもちゃ箱」など、本人にとって見慣れた写真を使うと、より具体的に理解しやすくなります。
わが家でも、写真カードを使うと「これをするんだ」とイメージしやすくなり、声かけの回数が減る場面がありました。
視覚支援カードを作りたい方は、こちらの記事も参考になります。
特に、フォトカードメーカーは、子ども本人の写真や家の中の写真を使ってカードを作れるので、TEACCHの「分かりやすい環境づくり」と相性がいいです。
視覚支援カードを作りたい方は、無料の視覚支援カード一覧も参考になります。
また、実際の写真でカードを作りたい場合は、写真で作るフォトカードメーカーを使うと、家庭や学校の準備カードを作りやすいです。

朝の準備は、わが家でも大きな困りごとのひとつでした。
「着替えて」「歯みがきして」「カバン持って」と言っても、途中で止まってしまうことが多かったです。
そこで、
- トイレ
- 顔を洗う
- 歯みがき
- 着替え
- カバン
- 靴を履く
という流れをカードにしました。
すると、息子が「次は何をするか」を自分で確認しやすくなりました。
ポイントは、行動を細かく分けることです。
「朝の準備」ではなく、「靴下をはく」「カバンを持つ」のように具体的にします。
2. 食事の流れを決める
食事中に席を立ってしまう、途中で遊び始めてしまうということもありました。
そのため、
- 席に座る
- いただきます
- ごはんを食べる
- お茶を飲む
- ごちそうさま
- 食器を運ぶ
という流れを見える化しました。
さらに、食べる量が不安なときは「全部食べる」ではなく、「ここまで食べたらOK」と分かるようにすることもあります。
食事は毎日のことなので、親子でストレスが大きくなりやすいです。
完食を目指すより、「落ち着いて食卓に座れた」「ひと口試せた」も大切な成功だと思います。
3. 片付ける場所を写真で示す

「片付けて」と言っても、子どもには何をどこに戻せばよいか分かりにくいことがあります。
わが家では、
- ブロックの箱
- 絵本の棚
- 車のおもちゃの場所
- ぬいぐるみの場所
を写真やラベルで分かるようにしました。
「片付けなさい」ではなく、
「ブロックをこの箱に入れよう」
と具体的にすると動きやすくなります。
4. 外出前に行き先と流れを伝える
外出前に不安定になることがありました。
特に、初めての場所や予定が分からない外出では、行く前から不安そうにすることもありました。
そこで、
- どこに行くか
- 誰と行くか
- 何をするか
- いつ帰るか
を簡単に伝えるようにしました。
写真を見せたり、地図を見せたりするだけでも、見通しが持ちやすくなります。
5. タイマーで終わりを見える化する
好きな遊びやテレビを終えるとき、急に「おしまい」と言うと癇癪になることがありました。
そこで、タイマーを使って終わりを見える化しました。
「あと5分」
「タイマーが鳴ったら終わり」
「この動画が終わったらお風呂」
のように、終わりを予告します。
音が苦手な子には、音が小さいものや、光・色で分かるタイマーも使いやすいです。
6. 着替えの手順を分ける
着替えも、まとめて言うと難しいことがあります。
「着替えて」ではなく、
- パジャマを脱ぐ
- シャツを着る
- ズボンをはく
- 靴下をはく
のように分けると、動きやすくなります。
前後を間違えやすい服には、目印をつけるのもおすすめです。
わが家でも、服の前後や靴の左右が分かりにくい時期は、印をつけたり、並べ方を工夫したりしていました。
7. トイレの手順を貼る
トイレは、大人にとっては当たり前でも、子どもにとっては手順が多い行動です。
- トイレに行く
- ズボンを下ろす
- 座る
- 拭く
- 流す
- 手を洗う
という流れを見える化すると、次に何をすればよいか分かりやすくなります。
特にトイレに不安がある子には、手順が見えるだけで安心につながることがあります。
8. 遊びの選択肢をカードにする
同じ遊びばかりになるときや、何をして遊べばよいか分からないときは、遊びの選択肢カードが役立ちます。
たとえば、
- ブロック
- 絵本
- お絵描き
- 粘土
- 外遊び
- パズル
などをカードにして、「今日はどれにする?」と選べるようにします。
自分で選ぶ経験は、主体性にもつながります。
9. 気持ちカードで感情を伝える
息子は、自分の気持ちを言葉で説明するのが苦手な時期がありました。
怒っているのか、悲しいのか、疲れているのか分からず、親子で困ることもありました。
そこで、気持ちカードを使いました。
- うれしい
- かなしい
- いやだ
- こわい
- つかれた
- くやしい
などを見える形にすると、言葉にできない気持ちを指さしで伝えやすくなります。
「怒らないで言って」ではなく、まず「どの気持ち?」と選べるようにするだけでも、親子のやりとりが少しラクになりました。
10. 寝る前の流れを固定する
寝る前は、切り替えが難しくなりやすい時間です。
わが家でも、寝る前にテンションが上がってしまい、なかなか寝る準備に入れないことがありました。
そこで、
- お風呂
- パジャマ
- 歯みがき
- 絵本
- ぎゅー
- おやすみ
のように流れを固定しました。
毎日同じ流れにすると、子どもも「次はこれ」と分かりやすくなります。
11. お風呂の流れをカードで示す
お風呂が苦手な子には、何をするのか分からない不安があることもあります。
- 服を脱ぐ
- シャワー
- 体を洗う
- 頭を洗う
- 湯船
- 体を拭く
- パジャマ
という流れをカードにすると、見通しが持ちやすくなります。
お風呂は感覚過敏とも関係しやすいので、シャワーの音や温度、泡の感触なども合わせて調整すると安心です。
12. 買い物リストを子ども用にする

スーパーで走り回ったり、待てなかったりする場合は、子どもに役割を作るのもおすすめです。
たとえば、イラストや写真で、
- 牛乳
- パン
- バナナ
などを見せて、「この3つを探してね」と伝えます。
役割があると、ただ待つよりも落ち着いて過ごしやすいことがあります。
13. 旅行前に写真で予定を見せる
旅行や帰省など、いつもと違う予定は楽しみな反面、不安も大きくなりやすいです。
事前に、
- 乗る電車や車
- 泊まる場所
- 行く場所
- ごはんを食べる場所
- 帰る日
などを写真で見せておくと、安心しやすくなります。
わが家でも、初めての場所は事前に写真で確認するだけで、本人の不安が少し和らぐことがあります。
14. 通園・通学準備のチェックリストを作る
持ち物準備は、親が全部やると早いですが、子どもの自立につなげたい場面でもあります。
- ハンカチ
- 水筒
- 連絡帳
- 帽子
- 給食セット
などをチェックリストにすると、自分で確認しやすくなります。
小学生になってからも使える方法なので、幼児期から少しずつ取り入れておくと便利です。
15. 順番待ちを見える化する
順番を待つことが苦手な子には、「待ってて」だけでは分かりにくい場合があります。
そんなときは、
- 今はお友達
- 次は自分
- 終わったら交代
のように順番を見える形にします。
家庭では、兄弟でおもちゃを使うときにも使えます。
「あとで」ではなく、「この次」と分かると、少し待ちやすくなります。
16. 食べるものを選べる形にする
偏食がある子に「全部食べなさい」は、親子ともにしんどくなりやすいです。
わが家では、選択肢を少なくして、
「この中から1つ食べてみる?」
「こっちとこっち、どっちにする?」
のように選べる形にすることがあります。
自分で選ぶと、少し納得しやすくなります。
食事は無理に進めるより、安心して食卓にいられることも大切です。
17. 外食の流れを事前に伝える
外食では、料理が来るまでの待ち時間が大変でした。
そこで、
- お店に入る
- 席に座る
- 注文する
- 待つ
- 食べる
- 帰る
という流れを事前に伝えました。
さらに、待ち時間用に、
- 小さな絵本
- お絵描き
- シール
- 静かに遊べるカード
などを用意すると、落ち着いて過ごしやすくなります。
「待つ時間」が見えないとつらいので、待つための道具もセットで考えると安心です。
TEACCHを家庭で取り入れるときのコツ
まずは1場面だけでいい
最初から家中を整えようとすると、親が疲れてしまいます。
まずは、
- 朝の準備
- 片付け
- 寝る前
- 外出前
など、いちばん困っている場面を1つ選ぶのがおすすめです。
子どもに合う形にする
絵カードが合う子もいれば、写真の方が分かりやすい子もいます。
文字が読める子なら、文字だけのリストが合う場合もあります。
子どもの年齢や理解に合わせて変えて大丈夫です。
完璧なカードを作ろうとしない
手書きでも、写真でも、付箋でも大丈夫です。
大切なのは、おしゃれなカードを作ることではなく、子どもが見て分かることです。
わが家も、最初からきれいな教材を作っていたわけではありません。
家にある紙に簡単に描いたり、スマホの写真を見せたりすることから始めました。
慣れてきたら少しずつ減らす
視覚支援は、ずっと同じ量を使い続けなければいけないものではありません。
子どもが覚えてきたら、カードを減らしたり、必要な場面だけ使ったりしても大丈夫です。
目的は、カードに頼らせることではなく、子どもが自分で動きやすくなることです。
TEACCHを受けられる場所は?
TEACCHの考え方は、療育センター、児童発達支援、放課後等デイサービス、特別支援教育の現場などで取り入れられていることがあります。
ただし、「TEACCH」と明記していなくても、視覚支援や構造化を使っている施設もあります。
相談するときは、
- 視覚支援を使っていますか?
- スケジュールや手順を見える化していますか?
- 子どもに合わせた環境調整はありますか?
- 家庭で使える方法も教えてもらえますか?
と聞いてみると分かりやすいです。
全国の施設名を記事内で細かく並べるよりも、お住まいの自治体や事業所に確認する方が正確です。
よくある質問
TEACCHとは何ですか?
TEACCHは、ASDの特性に合わせて環境を整え、見通しを持ちやすくする支援の考え方です。視覚支援や構造化を使い、子どもが自分で動きやすい環境を作ります。
TEACCHは家庭でもできますか?
家庭でも取り入れられます。朝の準備カード、片付けラベル、スケジュール表、手順表、タイマーなどから始めると使いやすいです。
TEACCHと視覚支援は同じですか?
同じではありません。視覚支援は、情報を見える形にする方法です。TEACCHは、視覚支援に加えて、場所・時間・手順・終わりを分かりやすくする構造化の考え方を含みます。
TEACCHは何歳から使えますか?
幼児期から使えます。年齢に合わせて、写真、絵カード、文字、チェックリストなど形を変えると使いやすいです。
TEACCHはASD以外の子にも使えますか?
見通しがあると安心しやすい子、切り替えが苦手な子、複数指示が苦手な子にも役立つ場合があります。ただし、子どもの特性に合わせて調整することが大切です。
視覚支援カードは手作りでもいいですか?
手作りで大丈夫です。写真、手描き、付箋、ホワイトボードなど、子どもが分かれば十分です。
TEACCHのデメリットはありますか?
準備に少し手間がかかることがあります。また、子どもに合わない方法を無理に続けると負担になることもあります。子どもの反応を見ながら調整することが大切です。
カードに頼りすぎるのが心配です。
慣れてきたらカードを減らしたり、必要な場面だけ使ったりできます。目的はカードを使い続けることではなく、子どもが安心して自分で動けるようにすることです。
TEACCHとABAの違いは何ですか?
大まかにいうと、TEACCHは環境を分かりやすく整える支援、ABAは行動の前後関係を見ながら行動を学びやすくする支援です。どちらが上というより、子どもに合う形で使い分けることが大切です。
まず何から始めればいいですか?
いちばん困っている場面を1つ選びます。朝の準備、片付け、寝る前、外出前など、毎日くり返す場面から始めると効果を感じやすいです。
まとめ
TEACCHは、ASDの子どもに「もっと頑張って」と求める支援ではありません。
子どもが分かりやすいように、環境や手順を整える支援です。
わが家でも、視覚支援や構造化を取り入れることで、
- 朝の準備が分かりやすくなる
- 片付けの場所が分かる
- 外出前の不安が減る
- 寝る前の流れが安定する
- 気持ちを伝えやすくなる
- 親の声かけの負担が減る
といった変化を感じてきました。
もちろん、毎日うまくいくわけではありません。
カードを作っても見てくれない日もあります。
予定通りに進まない日もあります。
親の方が疲れてしまう日もあります。
それでも、「言葉だけで伝える」から「見て分かる形にする」へ変えるだけで、子どもが動きやすくなる場面は確かにあります。
TEACCHの考え方は、特別な場所だけで使うものではありません。
家庭の中の小さな困りごとにこそ、取り入れやすい支援です。
まずは、朝の準備、片付け、寝る前など、ひとつの場面から始めてみてください。
子どもが安心して動ける環境を作ることは、親子の毎日を少しラクにしてくれます。