はじめに
お子さんの発達や学習に「得意なこと」と「苦手なこと」があるのは自然なことです。
そのバランスを客観的に知るために役立つのが WISC(ウィスク)検査。

なかでも FRI(流動性推理指標) は、目に見えないルールを見つけたり、柔軟に考えたりする力を測る指標です。
「算数の文章題が苦手」「パターンを見つけるのが得意」など、子どもの思考のクセを理解するヒントになります。
この記事では、
- FRIとは何か?(意味と特徴)
- 高い/低いときに見られる傾向
- 発達特性(ASD・ADHDなど)との関係
- 家庭や学校でできる支援方法
を、体験談を交えながらわかりやすく解説します。
お子さんの学びをサポートするヒントとして、ぜひ参考にしてみてください🌱
WISC検査とは?子どもの得意・苦手を見つける発達検査
WISCの対象年齢と検査の目的
WISC(ウィスク:Wechsler Intelligence Scale for Children)は、5歳から16歳11か月までのお子さんを対象に行う発達検査です。
知能検査といっても「IQだけを測るもの」ではなく、子どもの思考力や処理の仕方を多角的に評価できるのが特徴です。
目的は「子どもの強みと弱みを見つけ、支援に活かすこと」。
例えば、同じ「勉強が苦手」でも、
- 言葉の理解が苦手なのか(VCI)
- 視覚的な情報処理が苦手なのか(VSI)
- 考える柔軟さに課題があるのか(FRI)
- 記憶にとどめておくのが難しいのか(WMI)
- 作業スピードが遅いのか(PSI)
によってアプローチは変わります。
「何ができて、何が苦手なのか」を具体的に知ることができるため、
学校や家庭での学習支援、進学・就学判断の参考として使われています。
5つの認知指標(VCI・VSI・FRI・WMI・PSI)の概要
WISCでは大きく5つの認知指標を評価します。
- VCI(言語理解指標):ことばの意味を理解し、表現する力
- VSI(視空間指標):形や位置関係を正しく把握する力
- FRI(流動性推理指標):ルールを見つけ、柔軟に考える力
- WMI(ワーキングメモリ指標):情報を一時的に覚えて操作する力
- PSI(処理速度指標):視覚的な課題を素早く正確に処理する力
これらは単独で見るのではなく、「子どもの学び方の特徴」として総合的に捉えることが大切です。
たとえば「VCIが高くPSIが低い」子は、知識や言葉は豊かでも作業に時間がかかる傾向があります。
逆に「FRIが低い」子は、暗記は得意でも、初めての課題に取り組むときに戸惑いやすいかもしれません。
このようにWISCは、子どもの困りごとを「性格や努力不足」ではなく、「認知の特性」として理解する手がかりを与えてくれます。
FRI(流動性推理指標)とは?意味と特徴をやさしく解説
FRIでわかる「考える力」
FRI(Fluid Reasoning Index/流動性推理指標)は、
「初めて出会う課題に対して、ルールやパターンを見つけ、柔軟に考えて解決する力」 を測ります。
つまり、これまでの知識や経験に頼るのではなく、状況に応じて新しい考え方を生み出す力が問われるのです。
例えば、
- 図形の並びから共通するルールを見つける
- 複数の絵を見比べて「仲間同士」を探す
- 論理的に推測して答えを導く
といった課題が出されます。
学習面では、
算数の文章題を理解する力
理科で因果関係を考える力
国語で隠された意図を読み取る力などに関係してくることが多いです。
一方で、FRIが弱い子どもは「見えないルールを推測する」ことが苦手で、
解き方がわからないと途中で手が止まってしまうことがあります。
FRIで行う主な検査課題(マトリックス推理・絵の概念)
FRIでは主に以下のような検査課題が実施されます。
1️⃣マトリックス推理
複数の図形の並びの中から「空いている部分に入る正しい図形」を選ぶ課題です。
図形の変化や法則を読み取る力が必要で、論理的思考の柔軟さが問われます。
2️⃣絵の概念
3つの絵カードを提示され、その中から「共通点があるもの」を選びます。
たとえば「犬・猫・車」の中で共通するのは「犬と猫=動物」というように、
抽象的なカテゴリー化の力が必要です。
これらは単なる「暗記」や「スピード勝負」ではなく、パターンを発見し、論理的に考える力を測るものです。
そのため、知識の豊富さよりも「考え方の柔軟さ」「思考の組み立て方」が評価されます。
FRIは「見えないルールを発見する力」を映す鏡のような存在です。
高ければ「新しい課題にワクワクして取り組む」傾向が見られることもありますし、
低ければ「初めての問題で固まってしまう」こともあります。
どちらが良い・悪いではなく、子どもがどのように考えると理解しやすいか を知るための大切な指標なのです。
WISC FRIが高い子・低い子に見られる特徴
FRIが高い子の強み(柔軟な思考・問題解決力)
FRIが高いお子さんは、「初めて見る問題」や「複雑なルール」が含まれる課題に強い傾向があります。
例えば、算数の文章題で「どの式を使えばいいのか?」を推測したり、
理科の実験で「なぜそうなるのか?」を自分なりに考えたりするのが得意です。
また、パターンや規則性を見つける力があるため、ブロック遊びやパズル、迷路などでも集中して取り組めることが多いです。
日常生活では、
- 新しいゲームのルールをすぐに理解できる
- 複雑な状況でも筋道を立てて考えられる
- 柔軟に発想を変えて問題を解決できる
といった場面が見られます。
ただし、FRIが高い子でも「得意だからこそ慎重すぎて時間がかかる」ケースもあります。
周囲からは「考えすぎて答えが出ない」と思われることもあるので、
思考の切り替え方や答えを出すスピードとのバランスを意識するとさらに力を伸ばせます。
FRIが低い子がつまずきやすい場面(算数・ルール理解・推理的課題)
一方でFRIが低めのお子さんは、目に見えないルールやパターンを見つけることが苦手です。
「どう考えたらいいのかわからない」という気持ちが強く、途中で投げ出してしまうこともあります。
具体的には、
- 算数の文章題や図形問題(状況をイメージして解くのが難しい)
- 国語の読解(行間や隠された意図を読み取るのが苦手)
- 新しい遊びやゲームのルールを覚える(見えない仕組みを理解するのが難しい)
などでつまずきやすいです。
ただし、これは「知識がない」からではなく、未知の情報を整理してパターン化するのに時間がかかる特性によるものです。
サポートがあれば理解できるケースも多いため、
- 課題を細かいステップに分けて説明する
- 図や絵を使って視覚的に補助する
- 「この場合はこう考えるよ」と具体的な例を示す
といった工夫が効果的です。
FRIの数値は「頭の良し悪し」を決めるものではありません。
むしろ、子どもがどのように考えると理解しやすいかを知るためのヒントです。
高くても低くても、その子なりの強みや個性が必ずあり、支援の仕方次第で大きく成長していきます🌱
FRIと発達特性の関係を考える
ASD(自閉スペクトラム症)との関連
ASDのお子さんは「得意な領域と苦手な領域の差」が大きく出ることが多いです。
FRIはその差が表れやすい指標の一つです。
例えば、図形や規則性を見つけるのが得意でFRIが高い場合、パズルや数学的な課題に強みを示すことがあります。
その一方で、抽象的なルールや曖昧な課題になると「どう考えればいいのかわからない」と戸惑うことも少なくありません。
また、ASDの子どもは「自分なりのルール」にこだわる傾向があるため、
FRIの課題で独自の視点で答えを導き出すケースもあります。
検査者から見ると「間違い」に見える答えでも、子どもなりの一貫した論理が存在していることもあります。
ADHDとの関連は?
ADHDのお子さんの場合、
FRIの結果は「思考力そのもの」よりも「集中の持続」や「衝動性」に左右されることがあります。
問題を解く力はあっても、課題に集中できず最後まで考えられなかったり、焦って答えを選んでしまったりすることがあるのです。
そのため、FRIの点数が低く見えても、実際には「注意が続けば解けた可能性がある」というケースも珍しくありません。
逆に、集中できる課題では高い力を発揮する場合もあり、環境調整の重要性が浮き彫りになります。
一人ひとり異なる「例外的なパターン」もある
発達特性とFRIの関係はあくまで「傾向」であり、必ずしも一つの型には当てはまりません。
ASDでもFRIが非常に高い子もいれば、低い子もいますし、ADHDの子でもFRIが安定して高い場合もあります。
大切なのは「数値だけで決めつけないこと」。
FRIが低くても、知識の積み重ねで十分に学習を補える場合もありますし、
FRIが高くても、学習や生活の中で困難を感じることはあり得ます。
FRIの結果を「診断名と直結させるためのデータ」として見るのではなく、
子どもがどんなときに力を発揮できて、どんなときに支援が必要なのかを理解する材料として活用することが大切です。
家庭や学校でできるFRIのサポート方法
日常生活での工夫(パズル・分類遊び・「なぜ?」を楽しむ会話)
FRIは「パターンを見つける力」「柔軟に考える力」と関係が深いので、家庭でも遊び感覚で伸ばしていくことができます。
例えば、
- パズルやブロック遊び:
形や組み合わせのルールを考える経験が積める - カードゲームやボードゲーム:
ルールを理解し、相手の動きを推測する力を養える - 分類遊び(動物・食べ物などをカテゴリー分けする):
共通点や違いを考える習慣がつく
といった活動は、FRIの発達に直結します。
また、日常の会話の中で「なんでだと思う?」「どうしてそうなるかな?」と問いかけることで、
子どもが自分なりに推理する機会を増やすことができます。
正解を求めるよりも、考えるプロセスを楽しむことがポイントです。

学校での支援の工夫
学校では、FRIが低めのお子さんに対して「考え方を補助する手がかり」を与えることが大切です。
- 課題を小さなステップに分けて提示する
- 視覚的に示す(図・フローチャートなど)
- 具体例を使って説明する
といった支援が有効です。
例えば算数の文章題でつまずきやすい場合、
「何を聞かれているか」「どの情報が必要か」を一緒に整理してあげると理解が進みやすくなります。
逆にFRIが高い子は、自由度の高い課題やオープンエンドの質問にやりがいを感じることが多いので、
探究的な学習の場面で力を発揮できます。
支援で大切なのは「安心感」と「成功体験」
FRIが低いと、新しい課題に取り組むときに「どうしたらいいかわからない」という不安を抱えやすくなります。
そんなときは「一緒に考えよう」「やり方を工夫すればできるよ」と支えてあげることが大切です。
また、小さな成功体験を積み重ねることで「考えればできる」という自信につながります。
家庭でも学校でも、子どもが安心して挑戦できる環境づくりが何よりのサポートになります。
FRIの支援は特別な教材や訓練だけでなく、日常のちょっとした工夫で可能です。
「考えることって面白い!」という気持ちを育てていくことが、学びや発達の基盤になっていきます。
検査結果をどう活かす?保護者や先生ができること
数値を「ラベル」ではなく「ヒント」として見る
WISCのFRIを含む各指標は、あくまでも「その子の考え方の傾向」を知るための道具です。
結果の数値だけを見て「頭がいい」「苦手だ」と決めつけてしまうと、子どもの自己肯定感に影響を与えてしまうことがあります。
むしろ大切なのは、
- どのような課題なら理解しやすいのか
- どんな支援があると力を発揮できるのか
- 学習や生活でどのように応用できるのか
といった「実際の場面へのヒント」として結果を受け止めることです。
保護者ができること
保護者の役割は、子どもの得意・不得意を「受け止め、サポートする」ことです。
FRIが高ければ、新しいことに挑戦できる環境を用意したり、探究的な遊びや学習に触れさせるのがよいでしょう。
FRIが低めであれば、課題を細かく区切って達成感を味わえるように工夫したり、
「できた!」という小さな成功体験を積ませることが大切です。

また、検査で見えた課題がそのまま「将来の可能性」を狭めるわけではありません。
「うちの子はこういう考え方をするんだ」と理解することで、安心して支えることができます。
先生ができること
学校の先生は、検査結果を「個別の学びを支援する材料」として活かせます。
例えば、
- 問題を整理する補助をする(「何を聞かれているのか」を一緒に確認)
- 図や表を使って視覚的に説明する
- オープンな課題を用意し、得意分野で力を伸ばす
といった対応が効果的です。
大切なのは「苦手を補う」だけでなく、強みをどう活かすか にも目を向けること。
得意な分野で自信をつけることが、苦手な分野に挑戦するエネルギーにもつながります。
FRIをはじめとした発達検査の結果は、子どもの未来を限定するものではなく、
よりよい成長をサポートするための地図のような存在です。
保護者と先生が協力して「子どもが安心して力を発揮できる環境」を整えることが、何よりの活かし方といえるでしょう。
よくある質問(FAQ)
FRI(流動性推理指標)って何ですか?
初めての課題や未知の状況で、ルールやパターンを見つけ柔軟に考える力を測る指標です。
FRIが高いとどんな特徴がありますか?
パターン発見や論理的思考が得意で、新しい課題にも柔軟に取り組めます。
FRIが低いとどうなりますか?
見えないルールや抽象的な問題で戸惑いやすく、ステップを細かく示すサポートが有効です。
FRIはIQと同じ意味ですか?
いいえ。IQは総合的な知能を表すのに対し、FRIは思考の柔軟性や推理力の傾向を測る指標です。
FRIとVCIやVSIの違いは何ですか?
VCIは言語理解力、VSIは視覚的空間認知力を測ります。
FRIは論理的思考の柔軟性に注目しています。FRIの結果は発達障害の診断に関係しますか?
直接の診断材料ではありませんが、ASDやADHDの特性を理解する手がかりになります。
家庭でFRIを伸ばす方法はありますか?
パズル、分類遊び、図形やルールを考えるゲーム、会話で「なぜ?」を問いかけることが有効です。
学校でFRIが低い子への支援はどうすれば良いですか?
課題を小分けにする、視覚的に整理する、具体例を示すなどの支援が効果的です。
FRIは年齢によって変わりますか?
成長に伴い発達する力ですが、個人差が大きいため年齢だけで判断できません。
FRIが低くても学習や生活で困ることはありますか?
未知の課題に戸惑うことがありますが、支援や工夫で十分に力を伸ばすことが可能です。
✨ まとめ|FRIを理解して子どもの学びを支える
WISCの指標の一つであるFRI(流動性推理指標)は、
「初めての課題にどう向き合うか」や「目に見えないルールを推測する力」を測るものです。
数値が高いから優れている、低いから劣っていると判断するものではなく、
子ども一人ひとりの思考の特徴を知るための手がかりといえます。
FRIが高い子は、未知の課題を柔軟に考えたり、パターンを発見したりすることに強みを発揮します。
一方でFRIが低めの子は、新しいルールや抽象的な問題に不安を感じやすい傾向がありますが、
ステップを細かく示したり視覚的に補助したりすることで、理解がぐんと深まることがあります。
また、ASDやADHDなどの発達特性とも関わりが見られる場合がありますが、
それもあくまでも「傾向」の一つにすぎません。
大切なのは、検査の結果を診断の決め手として見るのではなく、
「子どもがどんな場面で力を発揮できるか」「どんな支援があると安心できるか」を知る材料として活用することです。
家庭では、パズルや分類遊び、日常会話で「なぜ?」と問いかけることで思考力を伸ばすことができます。
学校では、課題を整理して提示したり、図解を用いたりする支援が有効です。
そして何より、子どもが「考えるって楽しい!」と感じられるように、安心できる環境づくりと小さな成功体験の積み重ねが大切です。
FRIは子どもの未来を限定するものではなく、学びや成長を支えるための羅針盤です。
保護者や先生がその意味を理解し、子どもの強みを活かしながら苦手を支えていくことで、一人ひとりの可能性は大きく広がっていきます。
📢次回予告
次回は、「WISC-Ⅴの各指標 ワーキングメモリ(WMI)の解説」をお伝え予定です。
お楽しみに!
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