はじめに|「なんでこんな行動をするの?」と思っていた頃
自閉スペクトラム症、ASDの子どもを育てていると、
「どうして急に走り出すの?」
「なんで友達との距離が近すぎるの?」
「なぜ同じことにこだわるの?」
「何回言っても伝わらないのはどうして?」
と戸惑う場面がありませんか。
私自身も、ASDの息子を育てる中で、常に動き回る姿、集団行動がうまくいかない姿、突然パニックになる姿に何度も悩みました。
最初は、ADHDなのかなと思っていた時期もあります。
でも発達専門医から、
「多動に見える行動の中にも、ASDの特性が関係していることがあります」
と説明されたことで、息子の行動の見方が変わりました。
それまでは「困った行動」に見えていたことも、実は、
- 不安を減らすため
- 感覚刺激を調整するため
- 何をすればいいか分からないため
- 気持ちを言葉にできないため
- いつも通りで安心したいため
という理由があったのかもしれません。
この記事では、ASDの子どもに見られやすい行動の背景と、家庭でできる関わり方を、わが家の体験談を交えて紹介します。
※この記事は医療的な診断を目的としたものではありません。気になる行動がある場合は、発達相談、保健センター、小児科、発達外来、療育センターなどに相談してください。
ASDとは?子どもの行動を理解するための基本
ASD、自閉スペクトラム症は、対人関係やコミュニケーションの難しさ、こだわりの強さ、感覚の偏りなどが見られる発達特性です。
ASDの表れ方は子どもによって大きく異なります。
言葉がよく出る子もいれば、言葉でのやりとりが苦手な子もいます。
人が好きで近づきすぎてしまう子もいれば、集団が苦手で距離を取りたがる子もいます。
大切なのは、ASDの子どもの行動を「わざと」「困らせたい」「言うことを聞かない」と決めつけないことです。
その行動の裏に、
「何が不安だったのか」
「何が分かりにくかったのか」
「どんな刺激がつらかったのか」
「どう伝えたかったのか」
を考えると、関わり方のヒントが見えてきます。
【体験談】ASDの息子の行動を理解できるようになるまで
息子はASDと診断されています。
診断を受ける前は、
「落ち着きがない」
「集団行動が苦手」
「友達との距離感が近い」
「同じことを何度もする」
「予定が変わると崩れる」
といった行動に悩んでいました。
特に私は、多動のように見える行動が気になっていました。
でも、発達専門医に相談したとき、
「年齢の小さい子、特に男の子は多動に見えることもあります。ADHDの要素を持っている場合もありますが、ASDの特性として行動に表れていることもあります」
という説明を受けました。
そのとき、息子の行動を「落ち着きがない」とだけ見るのではなく、ASDの視点で見直す必要があるのだと気づきました。
たとえば、
部屋を歩き回る。
これは、じっとできないのではなく、不安や感覚を調整しているのかもしれない。
友達に近づきすぎる。
これは、相手を困らせたいのではなく、距離感のルールがまだ分かっていないのかもしれない。
みんなと同じ活動ができない。
これは、やる気がないのではなく、手順や意味が理解できていないのかもしれない。
そう考えるようになってから、私の声かけも少しずつ変わりました。
「なんでできないの?」ではなく、
「どうしたら分かりやすいかな」
「何が嫌だったのかな」
「どんな形ならできるかな」
と考えることが増えました。
もちろん、今でも悩む日はあります。
でも、行動の理由を探すようになってから、親子ともに少し楽になったと感じています。
ASDの子どもによく見られる行動と背景
ここからは、ASDの子どもに見られやすい行動を、原因別に整理します。
1. 常に動き回る・そわそわする
ASDの子どもの中には、部屋の中を歩き回る、座っていても体を動かす、同じ場所を行ったり来たりする子がいます。
一見すると「落ち着きがない」と見えます。
でも、実はその動きが本人にとって安心材料になっていることがあります。
考えられる背景
- 不安を落ち着かせようとしている
- 感覚刺激を求めている
- じっとしている感覚が苦手
- 何をすればいいか分からず動いている
- 音や光などの刺激から逃げようとしている
わが家の体験談
息子も、家の中をうろうろ歩き回ることがありました。
最初は「座っていてほしい」と思っていました。
でも、無理に止めようとすると余計に落ち着かなくなることもありました。
今は、危険がない範囲で動ける時間を作ったり、活動の前に少し体を動かしたりするようにしています。
家庭でできる対応
- 動いていい時間を作る
- トランポリンやバランスボールなどで体を使う
- クールダウンできる場所を用意する
- 「今は座る時間」「終わったら動く時間」と見通しを伝える
- タイマーで時間を区切る
動きを止めることだけを目標にするより、「安全に動ける時間」と「落ち着く時間」を分ける方がうまくいきやすいです。
2. 集団行動が苦手で一人だけ違う行動をする

幼稚園や保育園で、
「みんなと同じように動けない」
「先生の指示が入りにくい」
「一人だけ違うことをしている」
という様子が見られることがあります。
考えられる背景
- 一斉指示の理解が難い
- 周囲を見て行動するのが苦手
- 活動の意味が分からない
- 見通しが持てず不安になる
- 音や人の多さで疲れている
わが家の体験談
息子は、集団行動で周りと同じタイミングで動くことが苦手でした。
特に、運動会や発表会の練習では、何をすればいいのか分からず固まったり、違う方向へ動いてしまったりすることがありました。
でも、家で流れを説明したり、先生と共有したりすることで、少しずつ参加しやすくなりました。
家庭でできる対応
- 活動の流れを事前に伝える
- 写真や絵カードで見通しを作る
- 「まず」「つぎ」「おわり」で短く伝える
- 園で困っている場面を先生に聞く
- できた場面を具体的にほめる
「みんなと同じようにやりなさい」だけでは分かりにくいことがあります。
「最初はここに並ぶ」
「音楽が鳴ったら歩く」
「終わったら先生のところに戻る」
のように、行動を分けて伝えると理解しやすくなります。
3. 友達との距離感が近い・たたいてしまう

ASDの子どもは、人との距離感や力加減が分かりにくいことがあります。
友達に近づきすぎたり、遊びのつもりで強く触ってしまったりすることもあります。
考えられる背景
- 相手の表情や反応を読み取りにくい
- 遊びたい気持ちをうまく伝えられない
- 力加減が分かりにくい
- 言葉より先に手が出てしまう
- 嫌な気持ちを言葉にできない
わが家の体験談
息子は、友達と遊びたい気持ちはあるのに、距離が近すぎて相手を驚かせてしまうことがありました。
また、顔を触る遊びが流行ったとき、力加減が分からず強く触ってしまったこともありました。
本人に悪気はありません。
でも、相手が嫌な思いをすることは教えていく必要があります。
家庭でできる対応
- 「近いよ」ではなく「一歩下がろう」と具体的に伝える
- ぬいぐるみで距離感を練習する
- 「貸して」「入れて」「やめて」を練習する
- 顔や体の大事な場所は触らないと伝える
- 手が出る前に使える言葉を決めておく
たとえば、
「お友達の顔は触らないよ」
「遊びたいときは“入れて”って言おう」
「嫌なときは“やめて”って言おう」
のように、使う言葉までセットで教えると分かりやすいです。
4. 突然走り出す・危ない行動をする
外出先やスーパー、駐車場などで突然走り出すと、親は本当にヒヤッとします。
ASDの子どもにとっては、刺激の多い場所がつらかったり、興味のあるものに強く引き寄せられたりすることがあります。
考えられる背景
- 音や光、人混みがつらい
- 見たいものに意識が向きすぎる
- 危険予測が苦手
- 不安や緊張から逃げたい
- 体を動かして落ち着こうとしている
家庭でできる対応
- 外出前にルールを確認する
- 駐車場では必ず手をつなぐ
- 人混みでは短時間で済ませる
- イヤーマフや帽子で刺激を減らす
- 「走らない」ではなく「ママの横を歩く」と伝える
- 走っていい場所を別で作る
「走らないで!」だけでは、何をすればいいか分かりにくいことがあります。
「ここでは手をつなぐ」
「白い線の内側を歩く」
「走るのは公園でしよう」
のように、代わりの行動を具体的に伝えることが大切です。
5. 会話が一方的・順番を待てない
ASDの子どもは、自分の興味があることを話し続けたり、相手の話を待たずに話し始めたりすることがあります。
考えられる背景
- 相手の反応を読み取りにくい
- 話す順番が分かりにくい
- 自分の興味が強い
- 話したい気持ちを止めにくい
- 会話の終わりや切り替えが分かりにくい
わが家の体験談
息子は、話したいことがあると家族の会話に割り込んでくることがありました。
最初は「今話してるでしょ」と注意していました。
でも、本人は悪気があるわけではなく、「自分の番を待つ」というルールが分かりにくかったのだと思います。
今は、
「ママが話し終わったら教えてね」
「次はナガネギ君の番ね」
と、順番を見える形で伝えるようにしています。
家庭でできる対応
- 「話す番」「聞く番」を決める
- 会話ゲームをする
- 話したいことはメモやカードに残す
- 「あとで聞くね」を必ず守る
- 待てたら具体的にほめる
「順番を待って」と言うだけでなく、待てたあとにちゃんと聞くことも大事だと感じています。
6. 強いこだわり・予定変更が苦手
ASDの子どもは、いつもと同じ流れや同じ物に安心することがあります。
そのため、急な予定変更や順番の変更が苦手なことがあります。
考えられる背景
- 予測できないことが不安
- いつも通りが安心材料になっている
- 変化への切り替えが難しい
- 好きなものへの関心が強い
- 終わりや変更の見通しが持てない
わが家の体験談
わが家では、朝の準備の順番や好きなキャラクターへのこだわりが強い時期がありました。
靴下の順番が違うだけで「いつもと違う!」と崩れてしまうこともありました。
また、好きなキャラクターの設定以外では遊びたがらないこともありました。
でも、無理にやめさせるより、そのこだわりを使って次の行動につなげる方がうまくいきました。
家庭でできる対応
- 予定変更は早めに伝える
- 視覚スケジュールを使う
- 「いつも通り」と「少し変える」を分ける
- 好きなキャラクターを支援に活かす
- 変更は一度に大きくせず、小さく試す
たとえば、
「今日は靴下の順番だけ変えてみよう」
「このキャラクターと一緒にお片付けしよう」
のように、安心できるものを使いながら少しずつ変化に慣れる形が合っていました。
7. 感覚過敏で服・音・感触がつらい
ASDの子どもには、感覚過敏や感覚鈍麻が見られることがあります。
服のタグ、縫い目、音、光、におい、食感などが、本人にとって強いストレスになることがあります。
わが家の体験談
息子は、服のタグや縫い目、濡れた服を強く嫌がることがありました。
泥やスライムなどの感触も苦手で、遊びに入れないこともありました。
以前は「気にしすぎかな」と思ってしまったこともあります。
でも、感覚過敏を知ってからは、本人にとっては本当に不快でつらい感覚なのだと分かりました。
家庭でできる対応
- タグなし・縫い目の少ない服を選ぶ
- お気に入りの服を複数枚用意する
- 外出時に着替えを持つ
- 音が苦手な場所ではイヤーマフを使う
- 苦手な感触は無理に触らせない
- 安心できる範囲から少しずつ試す
感覚過敏は、根性で慣れさせるより、環境を整える方がうまくいくことが多いです。
家庭でできるASD支援4つの基本

ここからは、わが家で特に役立った家庭支援をまとめます。
1. 見通しを作る
ASDの子どもは、次に何をするのか分からないと不安になりやすいことがあります。
視覚スケジュールや写真カードを使うと、生活の流れが分かりやすくなります。
例:
- 起きる
- 朝ごはん
- 着替え
- 歯みがき
- 幼稚園・学校
- 帰宅
- お風呂
- 寝る
「あと何をすれば終わりか」が見えるだけで、動きやすくなることがあります。
2. 指示を具体的にする
ASDの子どもには、あいまいな言葉が伝わりにくいことがあります。
「ちゃんとして」
「早くして」
「いい子にして」
よりも、
「靴をはこう」
「ブロックを箱に入れよう」
「ママの横を歩こう」
の方が伝わりやすいです。
3. 感覚に配慮する
音、光、服、におい、食感など、子どもが苦手な刺激を知っておくことはとても大切です。
家庭でできる配慮には、
- 服の素材を選ぶ
- 音量を下げる
- 休憩スペースを作る
- 苦手な感触を避ける
- 外出先に安心グッズを持っていく
などがあります。
4. できた行動を具体的にほめる
ASDの子どもは、「何がよかったのか」を具体的に伝えると分かりやすいです。
「すごいね」だけでなく、
「おもちゃを箱に入れられたね」
「順番を待てたね」
「嫌だったって言葉で言えたね」
「ママの横を歩けたね」
のように、行動を言葉にしてほめるようにしています。
小さな成功体験が増えると、子どもの自信にもつながります。
よくある質問
ASDの子どもの行動には理由がありますか?
多くの場合、行動の背景には不安、感覚刺激、見通しの持ちにくさ、コミュニケーションの難しさなどがあります。困った行動に見える場合でも、その子なりの理由があることがあります。
ASDとADHDの違いは何ですか?
ASDは主に対人関係、コミュニケーション、こだわり、感覚特性に困りごとが出やすい特性です。ADHDは不注意、多動性、衝動性が目立ちやすい特性です。ただし、両方の特性を併せ持つ子もいます。
ASDの子どもが多動に見えるのはなぜですか?
不安を落ち着かせるため、感覚刺激を求めるため、じっとしている感覚が苦手なためなど、さまざまな理由が考えられます。ADHDだけでなくASDの特性として動きが多く見えることもあります。
ASDの子どもが友達をたたくときはどうすればいいですか?
まず安全を確保し、その後で「何が嫌だったのか」「どう伝えたかったのか」を確認します。感情カードや絵カードを使い、「やめて」「貸して」「入れて」など代わりの言葉を練習することが役立ちます。
ASDの子どもに視覚支援は有効ですか?
多くの子にとって、予定や手順を見える形にする視覚支援は分かりやすいサポートになります。絵カード、写真カード、スケジュールボード、タイマーなどが使いやすいです。
ASDは治りますか?
ASDは病気のように「治す」というより、特性を理解し、環境調整や支援によって困りごとを減らしていくものです。子どもに合った支援で、生活しやすくなったり、自信を持てる場面が増えたりします。
家庭でまずできる支援は何ですか?
見通しを作る、指示を短く具体的にする、感覚刺激に配慮する、できた行動を具体的にほめることから始めやすいです。
まとめ|ASDの子どもの行動を「困った」だけで終わらせない
ASDの子どもの行動は、一見すると困った行動に見えることがあります。
でも、その裏には、
- 不安
- 感覚のつらさ
- 見通しの持ちにくさ
- 言葉で伝える難しさ
- 相手の気持ちを読み取る難しさ
- いつも通りで安心したい気持ち
が隠れていることがあります。
わが家も、最初は「どうしてできないの?」と思うことがたくさんありました。
でも、行動の理由を考えるようになってから、
「どうしたら伝わるかな」
「何がつらかったのかな」
「どんな支援があればできるかな」
と考えられるようになりました。
ASDの子育てに正解はありません。
うまくいく日もあれば、全然うまくいかない日もあります。
それでも、子どもの行動の意味に目を向けることで、親子の関係は少しずつ変わっていきます。
焦らなくて大丈夫です。
比べなくて大丈夫です。
今日できる小さな工夫を、ひとつずつ積み重ねていきましょう。