はじめに|WMIは「覚えながら考える力」
WISC検査の結果で、
「WMIが低めです」
「ワーキングメモリに負担がかかりやすいです」
「複数指示が苦手かもしれません」
と言われると、保護者としては不安になりますよね。
WMIとは、ワーキングメモリ指標のことです。
簡単に言うと、一時的に情報を覚えておきながら、それを使って考えたり行動したりする力です。
たとえば、
- 先生の指示を聞いて行動する
- 暗算をする
- 文章を読んで内容を理解する
- 黒板を見てノートに写す
- 「まず手を洗って、次に連絡帳を出して」といった複数指示をこなす
といった場面に関係します。
WMIが低い子は、やる気がないわけでも、聞いていないわけでもありません。
頭の中に情報を一時的に置いておくことに負担がかかりやすく、途中で抜けたり、混乱したりすることがあります。
この記事では、WISCのWMIについて、
- WMIとは何か
- WMIが低い子の特徴
- WMIが高い子の特徴
- WMIが高いのに複数指示が苦手な理由
- 家庭でできる支援
- 学校で相談できる配慮
- 検査結果の活かし方
を、保護者向けにわかりやすく解説します。
WISC検査の対象年齢・費用・検査内容・結果の見方を先に知りたい方は、こちらの記事にまとめています。
WISC検査とは?子どもの対象年齢・費用・結果の見方をわかりやすく解説
WMI(ワーキングメモリ指標)とは?
WMIは、Working Memory Indexの略で、日本語では「ワーキングメモリ指標」と呼ばれます。
ワーキングメモリは、よく「脳のメモ帳」と表現されます。
聞いたことや見たことを一時的に覚えておき、それを使って考えたり、作業したりする力です。
たとえば、先生に、
「算数のノートを出して、3ページを開いて、赤鉛筆で丸つけをしましょう」
と言われたとき、子どもは頭の中で、
- 算数のノートを出す
- 3ページを開く
- 赤鉛筆を使う
- 丸つけをする
という情報を一時的に覚えながら行動します。
このような場面で使う力が、ワーキングメモリです。
WMIが低い場合、最初の指示は聞いていても、途中で抜けてしまったり、順番が分からなくなったりすることがあります。
WISCの5つの指標の中でWMIはどんな位置づけ?
WISC-Vでは、主に次の5つの指標を見ます。
| 指標 | 読み方 | 見る力の目安 |
|---|---|---|
| VCI | 言語理解 | 言葉の理解、語彙、説明する力 |
| VSI | 視空間 | 目で見た形や位置関係をとらえる力 |
| FRI | 流動性推理 | ルールや関係性を見つけて考える力 |
| WMI | ワーキングメモリ | 情報を一時的に覚えて使う力 |
| PSI | 処理速度 | 見た情報を素早く正確に処理する力 |
WMIは、学習や生活の中で「聞く・覚える・考える・行動する」をつなぐ力に関係しやすい指標です。
授業では、先生の話を聞きながら、教科書を見て、ノートに書いて、次の指示を待つ場面がたくさんあります。
このように同時にいくつかのことをする場面では、WMIに負担がかかりやすくなります。
WMIで行う主な課題
WMIでは、一時的に情報を覚えて、順番を変えたり、思い出したりする課題が行われることがあります。
ただし、実際の検査問題を詳しく知りすぎると、正確な結果が出にくくなることがあります。
ここでは、家庭でイメージしやすい範囲で説明します。
聞いた数字や言葉を覚える課題
検査者が言った数字や言葉を聞いて、同じ順番や別の順番で答えるような課題です。
この課題では、
- 聞く力
- 一時的に覚える力
- 順番を保つ力
- 頭の中で並べ替える力
が関係します。
見た情報を覚える課題
絵や図を見て、覚えて答えるような課題が使われることもあります。
この場合は、視覚的な情報を一時的に覚えておく力が関係します。
WMIの結果には、注意力、聞き取り、視覚的な記憶、言葉の理解、緊張なども影響することがあります。
WMIが低い子の特徴
WMIが低めの子は、情報を一時的に覚えておくことに負担がかかりやすいです。
たとえば、次のような姿が見られることがあります。
- 複数の指示を忘れる
- 途中で何をするか分からなくなる
- 暗算が苦手
- 文章題で条件を覚えていられない
- 板書中に先生の話を聞き逃す
- 忘れ物が多い
- 宿題の途中で手が止まる
- 話を聞いていたのに「何だっけ?」となる
- 手順が多い作業で混乱する
これは「聞いていない」「やる気がない」という意味ではありません。
本人は聞いていても、頭の中に置いておく情報が多すぎると、途中で抜けてしまうことがあります。
特に、口頭だけの長い指示は負担になりやすいです。
WMIが低い子が学校で困りやすい場面

学校では、ワーキングメモリを使う場面がたくさんあります。
複数指示が苦手
先生が一度に、
「連絡帳を書いて、プリントを出して、終わった人から読書をしましょう」
と言うと、途中で抜けてしまうことがあります。
この場合、本人は最初の指示だけ実行して、その後に何をすればよいか分からなくなることがあります。
暗算や筆算で途中を忘れる
算数では、途中の数や手順を頭の中に置いておく必要があります。
WMIに負担がかかりやすい子は、
- 繰り上がりを忘れる
- 途中の数を忘れる
- どこまで計算したか分からなくなる
- 文章題の条件を覚えていられない
といったことがあります。
読解で内容を保持しにくい
文章を読むときも、前に読んだ内容を覚えながら次の文を読む必要があります。
WMIが低いと、読み進めているうちに最初の内容を忘れてしまい、全体の意味をつかみにくいことがあります。
板書と聞くことを同時にするのが苦手
板書を写しながら先生の説明を聞く場面は、かなり負担が大きいです。
目で見て、書いて、聞いて、覚えて、理解する必要があるため、WMIだけでなくPSIや注意力にも負担がかかります。
WMIが高い子の特徴
WMIが高い子は、一時的に情報を覚えて、それを使って考えることが得意な場合があります。
たとえば、次のような姿が見られることがあります。
- 暗算が得意
- 聞いたことを覚えやすい
- 手順を覚えて行動しやすい
- 複数の情報を頭の中で扱いやすい
- ゲームのルールを覚えるのが早い
- 言われたことを順番にこなしやすい
ただし、WMIが高いからといって、日常生活で困らないとは限りません。
検査ではできても、学校や家庭ではうまくいかないこともあります。
その理由は、日常生活では、音、視覚刺激、友達の声、不安、疲れ、時間制限など、さまざまな負荷がかかるからです。
WMIが高いのに複数指示が苦手な理由
「WMIは高いのに、複数指示が苦手」
という子もいます。
これは珍しいことではありません。
WMIは大切な力ですが、複数指示をこなすには、WMIだけでなく、ほかの力も必要になるからです。
1.検査場面と日常場面が違う
検査は、静かな部屋で、1対1で、短い課題に集中しやすい環境で行われます。
一方、学校や家庭では、
- 周りの音
- 人の動き
- 時間のプレッシャー
- 途中の声かけ
- 別の刺激
- 気持ちの揺れ
があります。
そのため、検査ではできても、日常では指示が抜けやすいことがあります。
2.聴覚情報が苦手な場合がある
見て覚えることは得意でも、聞いて覚えることは苦手な子もいます。
この場合、口頭だけの長い指示では抜けやすくなります。
カード、メモ、チェックリストなど、見える形にすると取り組みやすくなることがあります。
3.処理速度や注意力の影響
WMIが高くても、処理速度がゆっくりだったり、注意の切り替えが苦手だったりすると、指示を覚えていても実行が追いつかないことがあります。
「覚えているけれど、動き出すまでに時間がかかる」
「途中で別のことに気を取られる」
という形です。
4.段取り力の影響
複数指示では、覚えるだけでなく、どの順番でやるかを考える必要があります。
「何から始めるか」
「次は何をするか」
を組み立てる力が必要です。
そのため、WMIが高くても、段取りが苦手だと途中で止まることがあります。
WMIが低い子への家庭でのサポート

WMIが低めの子には、「覚える力を鍛える」だけでなく、「覚えなくてもできる仕組み」を作ることが大切です。
1.指示は1つずつ伝える
一度にたくさん伝えると、途中で抜けやすくなります。
「着替えて、歯みがきして、ランドセルを持ってきて」
ではなく、
「まず着替えよう」
終わったら、
「次は歯みがきしよう」
というように、1つずつ伝えます。
2.見える化する
口頭だけの指示は忘れやすいことがあります。
次のような形で見える化すると安心です。
- 手順カード
- チェックリスト
- ホワイトボード
- 写真の手順表
- 持ち物リスト
- 宿題リスト
見る場所を決めておくと、「何をするんだっけ?」となったときに自分で確認しやすくなります。
3.復唱してもらう
指示を聞いたあとに、
「今から何をするんだっけ?」
と聞いて、子ども自身の言葉で言ってもらいます。
責めるためではなく、頭の中を整理するためです。
「そうそう、まず上着をしまうんだね」
と確認すると、行動につながりやすくなります。
4.手順を小さく分ける
宿題や支度は、ひとまとまりにすると負担が大きくなります。
たとえば宿題なら、
- 名前を書く
- 1問だけやる
- 丸つけをする
- 休憩する
- 次の問題をやる
のように小さく分けます。
最初の一歩が小さいと、取りかかりやすくなります。
5.忘れても大丈夫な仕組みを作る
WMIが低い子にとって、「忘れないように頑張る」だけではつらくなります。
忘れても確認できる仕組みを作ることが大切です。
- 持ち物は前日に置き場所を決める
- 朝の支度リストを貼る
- 宿題は終わったら同じ場所に入れる
- 連絡帳を見る時間を決める
- 忘れやすいものは玄関に置く
環境を整えることで、子ども自身も安心して動きやすくなります。
WMIが低い子への学校での支援
学校では、口頭指示が多く、WMIに負担がかかりやすいです。
必要に応じて、担任の先生に相談してみるとよいです。
指示を短く分ける
長い指示より、短い指示の方が理解しやすいことがあります。
「まずノートを出します」
「次に3ページを開きます」
のように、順番に伝えてもらえると取り組みやすくなります。
板書や指示を見える形で残す
口頭だけだと抜けやすい子には、見える形で残す支援が役立ちます。
- 黒板に手順を書く
- 今日やることを掲示する
- プリントに手順を入れる
- チェックリストを使う
- 重要な指示は連絡帳にも書く
視覚情報があると、聞き逃しても確認できます。
座席や環境を整える
周りの刺激が多いと、ワーキングメモリの負担が増えます。
必要に応じて、
- 先生の話が聞きやすい席
- 黒板が見やすい席
- 刺激が少ない席
- 必要なものだけ机に出す
といった環境調整が役立つことがあります。
先生へ相談するときの文例
学校へ相談するときは、検査結果だけでなく、具体的な困りごとを伝えると分かりやすいです。
いつもありがとうございます。
WISC検査で、ワーキングメモリ(WMI)に負担がかかりやすい可能性があると分かりました。
家庭でも、複数の指示を一度に聞くと途中で抜けてしまうことがあります。
学校でも、口頭指示が長い場面や、板書しながら説明を聞く場面で困っているかもしれません。
可能な範囲で、指示を短く区切る、手順を黒板やプリントに残す、本人に確認の声かけをするなど、ご相談できると助かります。
WMIを育てる遊びや関わり
WMIは、遊びや生活の中で使う機会があります。
ただし、無理にトレーニングするより、楽しく使う経験を増やすことが大切です。
しりとり
前の言葉を覚えながら次の言葉を考えるので、ワーキングメモリを使います。
難しい場合は、テーマを決めたり、大人がヒントを出したりすると続けやすいです。
神経衰弱
カードの場所を覚える遊びです。
枚数が多いと負担が大きいので、最初は少ない枚数から始めるとよいです。
買い物ごっこ
「りんごと牛乳を買ってきて」
のように、短いリストを覚えて動く遊びです。
慣れてきたら、2つ、3つと少しずつ増やします。
音読して内容を話す
短い文章を読んだあと、
「誰が出てきた?」
「何をした?」
と確認します。
長い文章ではなく、短い文から始めると取り組みやすいです。
わが家で意識していること
わが家の息子は、WISCでWMIが平均からやや高めという結果でした。
特に、見た情報を順番どおりに覚えることや、頭の中で並べ替える課題は得意なようでした。
一方で、日常生活では複数の指示が苦手な場面があります。
検査ではできても、家庭や学校では音や刺激が多く、気持ちの切り替えや段取りも必要になります。
そのため、わが家では、
- 指示は1つずつ伝える
- チェックリストで見える化する
- やることを順番に確認する
- 終わったら一緒に確認する
ことを意識しています。
数値だけを見ると「WMIが高いのに、どうしてできないの?」と思うこともあります。
でも、日常生活ではWMIだけでなく、注意、処理速度、段取り、感覚、疲れなどが重なります。
だからこそ、検査結果は「できるはず」と責めるためではなく、「どんな場面なら力を出しやすいか」を考えるために使うことが大切だと感じています。
よくある質問
WMIとは何ですか?
WMIはワーキングメモリ指標のことです。
一時的に情報を覚えておき、それを使って考えたり行動したりする力を見ます。
WMIが低いとどんな特徴がありますか?
複数指示を忘れやすい、暗算が苦手、文章題で条件を覚えにくい、途中で何をするか分からなくなるなどの姿が見られることがあります。
WMIが低いと勉強ができないということですか?
いいえ。
WMIが低くても、メモ、手順表、チェックリスト、視覚支援などを使うことで学びやすくなることがあります。
WMIが高い子はどんな特徴がありますか?
聞いたことや見たことを一時的に覚えて使うことが得意な場合があります。
暗算、手順の記憶、ルールの保持などで力を発揮することがあります。
WMIが高いのに複数指示が苦手なのはなぜですか?
日常生活では、音、刺激、注意の切り替え、処理速度、段取り、不安や疲れなど、WMI以外の力も関係します。
そのため、検査では高くても日常では困ることがあります。
WMIとADHDは関係ありますか?
ADHD傾向がある子では、注意の持続や切り替えの苦手さがWMIに影響することがあります。
ただし、WMIが低いだけでADHDと判断することはできません。
WMIとASDは関係ありますか?
ASDのある子では、口頭指示、曖昧な表現、予定変更、感覚刺激などが負担になり、WMIを使う場面で困りやすくなることがあります。
ただし、診断は生活全体の様子を含めて判断されます。
家庭でできるWMIサポートはありますか?
指示を1つずつ伝える、手順カードを使う、チェックリストを作る、復唱してもらう、忘れても確認できる仕組みを作るなどが役立ちます。
WMIはトレーニングで伸びますか?
遊びや学習の中で使う経験を増やすことはできます。
ただし、数値を上げることだけを目標にするより、生活や学習で困りにくくする環境調整が大切です。
学校ではどんな支援が合いますか?
指示を短く分ける、手順を見える形で残す、板書やプリントで確認できるようにする、座席や環境を整えるなどの支援が合うことがあります。
まとめ|WMIは「覚えながら考える力」を知るヒント
WISCのWMI(ワーキングメモリ指標)は、一時的に情報を覚えながら考えたり、行動したりする力を見ます。
WMIが低い子は、複数指示、暗算、文章題、板書、忘れ物などで困りやすいことがあります。
でも、それは努力不足ではありません。
頭の中に情報を置いておくことに負担がかかりやすい特性として見ることが大切です。
また、WMIが高い子でも、日常生活では複数指示が苦手なことがあります。
検査結果だけで決めつけず、実際の生活場面と合わせて見ることが大切です。
WMIの結果は、子どもを評価するためではなく、
- どんな場面で困りやすいか
- どんな伝え方だと分かりやすいか
- どんな支援があると安心できるか
を考えるためのヒントです。
「忘れないように頑張る」だけではなく、「忘れても確認できる仕組み」を作ることで、子どもの安心と自信につながります。
その子に合った方法で、できることを少しずつ増やしていけるといいですね。
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